博士学位授与式 式辞 (2008年9月24日)

尾池 和夫

尾池総長&苍产蝉辫; 今日、京都大学博士の学位を得られました160名の方々、おめでとうございます。课程博士130名、论文博士30名の皆さんが、今日学位を授与されました。ご列席の副学长、各研究科长とともに、心からおよろこび申し上げます。京都大学の111年の歴史の中で、博士学位はこれで36122名となりました。

 京都大学は、创立以来111年の歴史の中で多くの研究成果をあげ、知を创造し、知を蓄积してきました。教育と研究と社会贡献を大学の目的として、それらを効率よく行うためにさまざまの工夫をしながら予算の不足を知恵で补いつつ、京都大学は人类の福祉に贡献してきたという夸りを持っています。本日、学位を得られた皆さんの论文もまた京都大学の研究教育を进展させた贵重な业绩であります。皆さんの学位论文は、世界の人たちの共有财产として、国会図书馆に保存され、京都大学にも保存されることになります。ご自身でもその研究成果を积极的に多くの人に伝える努力をしてくださるようお愿いします。研究成果は多くの人に知ってもらってこそ、その価値があることになるのです。

 京都大学は、総合大学としてたいへん幅の広い分野に世界一と言える研究成果を持つ大学ですが、とりわけ伝统的にフィールドワークを一つの特徴として、世界の大学に成果を伝える仕事をしてきました。その结果、世界の各地に教育と研究と社会贡献の拠点を持っているという特徴があります。现在京都大学には10学部、19の大学院研究科など、13の研究所と16の研究センターなどがあります。研究所や研究センターの中には化学研究所のように1926年の设立以来の长い歴史を持つ研究所もあれば、こころの未来研究センターや野生动物研究センターのように最近设置されたものもあります。

 フィールドワークを行っている研究センターの例として、フィールド科学教育研究センターの国内の附属施设と、2008年4月に発足した野生动物研究センターの附属施设を见てみましょう。これらの施设にはいつも研究者たちがいて、それぞれの分野で次の世代の研究者を育てるための実习を行い、新しい研究成果をあげるために観察と记録を粘り强く続けている光景が见られます。そこには世界から、また日本の各地からやってきた学生や研究者たちがいて、実质的に共同利用している光景が见られます。その分野の世界の交流の拠点となっている施设がたくさんあり、京都大学はそのような点で国际的な教育研究の拠点であるということができます。

 フィールド科学研究センターには、附属施设として、芦生研究林(大正10年4月开设)、北海道研究林标茶区(昭和24年4月开设)、北海道研究林白糠区(昭和25年6月开设)、和歌山研究林(大正15年1月开设)、上贺茂试験地(大正15年9月开设)、徳山试験地(昭和17年3月开设)、北白川试験地(大正13年5月开设)、纪伊大岛実験所(昭和42年6月开设)、舞鹤水产実験所(昭和47年5月开设)、瀬戸临海実験所(大正11年7月开设)がありますが、さらにさまざまの机関や个人との协力のもとに、例えば気仙沼で、由良川で、古座川流域で、丹后の海で、あるいは横波叁里でというように、全国の至る所に教育研究の拠点があって、教员や学生たちがさまざまの人びととともに研究活动を行っています。

 野生动物研究センターの附属施设には、幸岛観察所(昭和44年6月开设)、屋久岛観察所(昭和58年4月开设)、チンパンジー?サンクチュアリ?宇土(平成19年8月开设)などがあります。私もこれらの3ヶ所を见学しましたが、そこには猿と鹿と人と、あるいはチンパンジーと学生との共存による研究のフィールドが见事に构成されており、そのフィールドをまた観察し记録するという贵重な体験をすることができました。

 このように京都大学の教育研究施設は北海道から九州まで広く分布しています。北海道では根釧原野の中央にある広大な研究林で厳冬の実習を行っています。東北には牡蠣のことを学ぶ気仙沼の拠点があり、飛騨の山には理学研究科附属天文台があります。柴田 一成教授らのグループは、この天文台の太陽磁場活動望遠鏡(SMART)を用いて、太陽系で最大の爆発現象である太陽フレアに伴う3連続衝撃波を初めて発見し、その成果が2008年9月1日発行のアストロフィジカル?ジャーナル?レター誌に掲載されました。京都大学の研究のフィールドは宇宙にまで拡がっていると言うことができます。

 このような教育研究の拠点は诸外国にもたくさんあります。その拠点を中心に多くの研究者たちがフィールドワークを実行して论文を书きます。また、诸国から来た留学生が自分の国を研究のフィールドとして、その地域との协力によって研究成果をあげる场合もあります。それらが贵重な研究资料となって、さらに研究が大きく発展することもあります。
  今日の学位論文の中にもそのような地域のことを分析して得た成果がたくさん見られました。そのいくつかを紹介してみます。

 経済学研究科経済システム分析専攻のSTHABANDITH INSISIENMAY(サタバンディット インシシェンマイ)さんの学位論文題目は、「ラオスにおける新しい経済計画用計量経済モデルの開発」です。主査は、大西 広(おおにし ひろし)教授です。

 アジアの社会主义の国はすべて途上国で、市场経済化という条件が加わっているという状况があります。この论文が対象とするラオスは、市场経済化への移行が遅れただけではなく、「途上国」としての経済水準や経済构造の遅れがあり、さらにはマクロ统计の整备の遅れがあるそうです。そのような状况をどのように経済计画用のマクロ计量経済モデルで表现するかが、この论文の课题でした。
同じく経済学研究科経済システム分析専攻のウマルジャン アイサンさんの学位论文题目は、「新疆ウイグル自治区における农村工业化の実态と発展条件」です。これも主査は、大西 広(おおにし ひろし)教授です。

 この论文は、新疆ウイグル自治区における农村工业化の実态と発展条件を経済学の枠组みの中で明らかにしていくことを试みたものです。チベット自治区ラサでの暴动を机に中国における少数民族问题が注目を集めていますが、そのような事件の前から、长く研究を进めてきた结果が集约されています。

 経済学研究科现代経済学専攻の刘 春发(リュウ シュンハツ)さんの学位论文题目は、「市场化に伴う中国林业経営の持続可能性についての経済分析」です。主査は、山本 裕美(やまもと ひろみ)教授です。

 この论文は、新中国建国から现在までの中国の林业政策の発展と改革を理论的実証的に分析したもので、1985年からの中国経済の市场経済化の下における现代中国の林业経営组织体制の改革と発展を论じたものです。

 同じく経済学研究科现代経済学専攻の张 冬雪(チョウ トウセツ)さんの学位论文题目は、「中国农业におけるガバナンス?メカニズムの転机」です。これも主査は、山本 裕美(やまもと ひろみ)教授です。

 この论文では、中国の农业発展过程が、制度?组织の面から奥颈濒濒颈补尘蝉辞苍(1996)のガバナンス理论と厂肠丑耻濒迟锄(1958)の农业组织理论を援用して定性的に分析されており、土地改革、合作社、人民公社、家庭联产请负责任制、农业产业化の诸段阶におけるガバナンスの転换过程が、合理的に分析できていることが评価されました。

 地球环境学舎环境マネジメント専攻の宫口 贵彰(みやぐち たかあき)さんの学位论文题目は、「公司とコミュニティのインターフェースを通じた気候変动の影响の軽减-インドとインドネシアの事例をもとに-」です。主査は、ショウ ラジブ准教授です。

 この论文は、昨今の全世界、特にアジア地域において顕着に见られる気候変动の影响の削减に向けて、私公司がコミュニティを焦点にした活动を通し、その持ち得る影响?役割について、インドおよびインドネシアの事例を基に分析したものです。

 同じく、地球環境学舎環境マネジメント専攻のAkhilesh Kumar Surjan(アキレッシュ クマール スルジャン)さんの学位論文題目は、「インド都市部におけるコミュニティ主体の環境改善を通じた気象災害への対応力に関する研究」です。これも主査は、ショウ ラジブ准教授です。

 この论文は、コミュニティレベルでの都市环境改善を通じて、都市リスクと気候変动のリスクの関わりをコミュニティの人々が认识することに着目し、持続可能なリスク軽减プロセスを分析したもので、都市社会が自然灾害のリスクに対して管理する际の重要な改善点を証明しました。対象地域はインド沿岸都市であり、洪水灾害の脆弱性と管理に焦点を当てて分析が行われました。

 また、同じ地球環境学舎環境マネジメント専攻のAnshu Sharma(アンシュー シャルマ)さんの学位論文題目は、「コミュニティ主体の防災における遠隔教育の効果的な内容と方法」です。主査は、小林 正美(こばやし まさみ)教授です。

 この研究は、コミュニティを主体にした防灾マネジメントを対象に、现场実务の実态を分析して、现地の実务家を教育するために相応しい内容と方法论を持った枠组みを作ることを目的にしたものです。

 同じく地球環境学舎環境マネジメント専攻のManu Gupta(マヌー グプタ)さんの学位論文題目は、「コミュニティ主体の防災マネジメント:外部支援型プロジェクトによる地域の対処能力の向上」です。これも主査は、小林 正美(こばやし まさみ)教授です。

 この论文は、持続的な、コミュニティ主体の防灾マネジメントの键は、コミュニティが持っている地域の文化と环境に根ざした伝统的な対処方法を评価し、それを强くして復元力を高めることにあると述べています。外部支援组织の役割は、コミュニティが、まわりの自然环境を理解し、自然に适合できる力を强めることと、自然の理解や自然への适合を阻むあらゆる障害を取り除くための、技术的な解决策を见つけ出せる环境をつくることにあると、その役割を明示しました。

 地球環境学舎地球環境学専攻の勝村 文子(かつむら あやこ)(旧姓 松本)さん、の学位論文題目は、「アートプロジェクトによる地域づくりに関する研究」です。主査は、小林 愼太郎(こばやし しんたろう)教授です。

 芸术を用いた地域づくりに関して、その効果と可能性について事例研究を通じて考究したものです。芸术を用いた地域づくりは、近年、事例数の増加や社会からの注目にもかかわらず、评価が难しいという点から事业継続の根拠となる効果について科学的な検証が行われていないそうです。この论文は、住民を対象とした质的调査と量的な统计分析を组み合わせることにより、芸术を用いた地域づくりの効果とその要因について様々な角度から明らかにして、アートプロジェクトによる地域づくりについて、実証的かつ科学的に论じたものです。

 棚瀬 慈郎(たなせ じろう)さんの学位论文题目は、「インドヒマラヤのチベット系诸社会における婚姻と家运営-ラホール、スピティ、ラダック、ザンスカールの比较とその変化」です。主査は、人间?环境学研究科の田中 雅一(たなか まさかず)教授です。

 この论文は、インドヒマラヤ西部に分布するチベット系诸社会についての比较研究を试みたもので、対象となっている地域は、インド共和国のヒマーチャル?プラデーシュ州ラホール渓谷、同州スピティ渓谷、ジャンムー?カシミール州ラダック地方、同州ザンスカール地方です。それらの社会における家运営のあり方と、婚姻戦略に関する研究を行い、それらがインド共和国という近代国家の枠组みの中で、いかなる変化をこうむってきたかを比较?考察しました。

 1963年に京都大学理学部地球物理学科を卒业して、私は防灾研究所の助手になりました。そして防灾研究所に新しくできた鸟取微小地震観测所の创设の仕事をしました。それは西村英一先生の考えで、小さい地震のデータから今までに知られていない地下の情报を得ようという世界で初めての计画であり、その时から连続して得られて地震计のデータの分析から深発地震発生の仕组みを研究して、私は1972年に京都大学理学博士という学位を授与されました。その论文のもとになった観测所を维持するために、多くの职员、学生の努力があって、教员の努力が生きるという协力体制が机能し、京都から离れた土地での仕事を家族が支え、また地元の方たちが惜しみなく援助の手をさしのべて下さいました。

 皆さんの学位论文の完成までにも、そのように多くの人々の支援がきっとあったことと思います。そのような背景にも思いを驰せながら、皆さんは今、苦労の道筋を思い出していることでしょう。

 これから皆さんは、京都大学博士として、さらなる研钻を积み、世界の平和と人类の福祉に贡献し、地球社会の调和ある共存に贡献する人材として、世界で研究活动を続け、また后进の指导をしながら、活跃することになるでしょう。そのためには何よりも心身の健康に気をつけて暮らしてほしいと思います。

 本日の博士学位授与、あらためて、まことにおめでとうございます。

 ありがとうございました。