博士学位授与式 式辞 (2008年5月23日)

尾池 和夫

尾池総長 本日、京都大学から博士の学位を授与された皆さま、まことにおめでとうございます。课程博士51名、论文博士9名、合计60名の方々に博士学位を授与いたしました。ご列席の副学长、各研究科长、学舎长とともに、心からおよろこび申し上げます。旧制の博士学位から今日の皆さんの学位まで含めて、京都大学から博士学位を得た研究者は総计35962名になりました。
 &苍产蝉辫;皆さんは学问の道を究めるために进学され、あるいは社会人として、さまざまの分野で研究を进めてこられました。本日、博士学位を得て社会のそれぞれの场所で、さらに研究を発展させるための计画を胸に抱いてこの授与式に临んでおられることと思います。ご家族の皆さまも、本日の授与式までの研究生活を支援してこられた道筋を思い起こしつつ、さぞお喜びのことと思います。
 &苍产蝉辫;皆さんは、これから世界の舞台で活跃される地点に立って未来を见つめておられることと思います。心身の健康に配虑しながら、今までに得られた豊かな知の蓄积を活かして、学问を続けて下さるよう祈っております。
 &苍产蝉辫;京都大学はその基本理念の中に、「自由の学风」、「多元的な课题の解决」、そして「地球社会の调和ある共存」というようなことばを书き込んであります。これらのことばを、21世纪の人类にとって基本となることばであると、私は思っています。皆さんもぜひ今后の研究の中で、そのようなことばの意味を常に考えていてほしいと思います。

 皆さんが学位论文を仕上げてこられたこの数年の间に、世界ではさまざまのことがありましたが、中でも东アジアから东南アジアに発生した大规模灾害は、人类に大きな损失をもたらせるものでした。最近の巨大灾害は大规模な地球现象によって引き起こされました。地球に起こる自然现象の仕组みを知って、その発生を长期的に予测しつつ、人の命と财产を守るための减灾の工学を発展されるのも、京都大学の大きな使命の一つです。
 &苍产蝉辫;最近の巨大灾害が発生した中国などを含む东アジア、ミャンマー、タイ、インドネシアなどのある东南アジアは、ともに京都大学の学问の大切なフィールドです。それらの地域に関连することを今日はまず少し取りあげてみたいと思います。

 
人文科学研究所 京都大学大学院文学研究科は、1906(明治39)に京都帝国大学文科大学として创设され、2006年には创设百周年の记念式典や国际シンポジウムを开催されました。文学研究科にも多くの重要なアジア地域の研究成果があります。例えば、ユーラシア文化研究センター(羽田记念馆)は、内陆アジア研究の発展に寄与された羽田亨博士の功绩を顕彰して、日本における内陆アジア研究の中心として、典籍のほか中央アジア、西アジアに関わる文献、约1万点が保管され、研究活动が続けられています。
 &苍产蝉辫;京都大学人文科学研究所は、1939年に设立された同名の旧研究所と、东方文化研究所、西洋文化研究所が一绪になって、1949年1月に発足しました。なかでも东方文化研究所は1929年に、中国文化を中心とした学术研究を目的として设立されました。1930年に北白川に建设されたスパニッシュ?ロマネスク様式の白亜の建物は、汉字情报研究センターとして使用されていて、京都大学の名所の一つになっています。その汉字情报研究センターは、汉字についての情报科学的な研究を行っており、メディアを通して汉字文献を広く研究者に提供する仕事を进めています。汉籍目録データベースなど、多くのデータベースがすでに公开されています。

 21世纪颁翱贰プログラムでは、「汉字文化の全き继承と发展のために、东アジア世界の人文情报学研究教育据点」というプログラムが実施され、大きな成果をあげています。この拠点では、长期にわたり汉字を媒体として、豊かな文化を育んできた歴史を有する中国や日本をはじめとする东アジア诸国における人文学を対象にしつつ、新しい学际领域としての东アジア人文情报学をめざすものでした。
 &苍产蝉辫;21世纪颁翱贰プログラム「世界を先导する総合的地域研究拠点の形成―フィールド?ステーションを活用した临地教育体制の推进」では、アジア?アフリカ地域研究に関する先导的な教育?研究拠点の形成を目指しました。统一テーマ「地球?地域?人间の共生」に沿って、フィールド?ステーションを利用した临地教育、研究を推进しています。また、新たに「地域研究统合情报センター」を设置して京都大学における地域研究の拠点を创出しました。
 &苍产蝉辫;「活地球圏の変动解明-アジア?オセアニアから世界への発信」というプログラムでは、地球上の最大の変动域であるアジア?オセアニアを突破口に、「活地球圏」に関する世界最高水準の研究教育拠点を形成することを目标に、やはり大きな成果をあげることができました。
 &苍产蝉辫;2007年度から开始されたグローバル颁翱贰プログラムでは、アジア?アフリカ地域の持続的発展に関する学际的研究を、グローバルで长期的な视野から多面的に行うための拠点が创出されました。これは、アジア?アフリカ地域研究研究科が东南アジア研究所と协力して行った21世纪COEプログラムの成果を受け継ぎ、フィールドワークと临地教育にもとづく大学院教育を継続するとともに、「持続型生存基盘研究」に関する讲义や演习を新设し、人材育成を図るものです。

 このような京都大学の教育と研究の活动の中から、今日の皆さんの学位论文のいくつかが生み出されてきました。今日はまず、そのなかから东アジアや东南アジアの地域で研究が展开されたものを绍介してみたいと思います。

 人间?环境学研究科共生文明学専攻の陈捷(チンショウ)さんの学位论文题目は、「甲骨文字に见える商代信仰の研究-神权、王权と文化の交わり-」です。主査は、阿辻哲次(あつじてつじ)教授です。
 &苍产蝉辫;この论文は、甲骨文字の分析を通じて商代の信仰を文化史の中に位置づけ、その特质の究明を目指したものです。商王が本来的に保持していた神権と王権が、当时の社会や文化の中でどのように相互に関係をもっていたかというテーマに関して、これまでの研究成果をふまえたうえで、いくつか独自の构想を提出しました。甲骨文字を分析し、その意义を、主として王の神権と文化との関係に注目して、商代信仰の具象性と抽象性に留意しつつ総合的に考察しました。中国文明における具象性と抽象性が、このような古い时期に甲骨に表现されていたということは、哲学史や文化史のうえできわめて注目すべき事実であると评価されました。

 人间?环境学研究科相関环境学専攻の岸本圭子(きしもとけいこ)さん旧姓山田(やまだ)さんの学位论文题目は、「东南アジア热帯雨林におけるハムシ群集の长期固体数変动様式」です。主査は、市冈孝朗(いちおかたかお)准教授です。
 &苍产蝉辫;ハムシ科甲虫は成虫が被子植物の叶を食べる昆虫で、特に热帯雨林の林冠において个体数?种数ともに多いことが知られています。东南アジア热帯の中心部に位置する、ボルネオ岛の北西部の低地フタバガキ混交林において、约6年にわたって毎月灯火採集が行われ、さまざまな昆虫类の标本が得られています。この论文は、ハムシ科甲虫の膨大な标本を整理して各种の个体数のデータセットを作成し、それを気候の変动様式や树木のフェノロジーとの関连の中で解析したものであります。これまで定量的に分析されることがほとんどなかった东南アジアの热帯雨林に生息するハムシ群集の多数の种の长期个体数変动を十分なデータ量をもって定量的に分析し、东南アジア热帯に生息する昆虫类の群集动态には他地域で见られない特徴が备わっていることを示しました。
  理学研究科地球惑星科学専攻のNurlia Sadikin(ヌリアサディキン)さんの学位論文題目は、「長期休止期にあるグントール火山の火山構造性地震とマグマ供給システム」です。論文調査委員は、井口正人(いぐちまさと)准教授他の方々です。
 &苍产蝉辫;インドネシア?西ジャワにあるグントール火山では、19世纪半ば以前は爆発的喷火と溶岩流出を繰り返す活発な喷火活动が続いましたが、1847年を最后に现在まで喷火が発生しておらず表面的には静穏な时期が続いています。一方、火山性地震の活动は活発で、1990年代に火山性地震観测网が整备されました。この论文は、2005年まで10年间に発生した火山性地震と、周辺の地质学的特徴、地盘変动などと総合してマグマ蓄积の可能性について分析したものです。

 京都大学ではまた、生命科学や生理学、医学などの多くの研究领域で、世界の最先端を行く研究者たちの活跃があります。文部科学省は、「世界トップレベル研究拠点形成促进プログラム」において5件を决定しましたが、京都大学は「物质-细胞统合システム拠点」を申请し採択されました。この「世界トップレベル研究拠点形成促进プログラム」は、「第3期科学技术基本计画」及び「イノベーション创出総合戦略」などに基づいて、2007年度から国际研究拠点形成促进事业费补助金として开始されたもので、第一线の研究者が是非そこで研究したいと世界から集まってくるような研究环境と研究水準を夸る「目に见える拠点」の形成を目指しています。
  京都大学のこの拠点は、次世代の科学技術には、5-100 nmのメゾ空間での分子複合体の理解と制御が必要との考えに立ち、多能性幹細胞であるES細胞とiPS細胞とメゾ制御をキーワードとして、化学、物理学、細胞生物学を統合した新しい科学領域の創出を目指しています。真にグローバルな革新的研究拠点の構築を実現するために、Kyoto iCeMS Fellowsと呼ばれる独立したスーパーポスドクのポストを用意しました。これは国際公募により世界トップレベルの若手研究者のキャリアハブとなるものです。また、共用実験室とオープンオフィスの導入により、研究室間の壁を取り除き、スペースの弾力的配分を可能にして、異分野研究者が共に創出する学際融合研究を推進し、さらに女性研究者がトップレベル研究者へと成長し、ステップアップするキャリアパスを支援するという仕組みを持っています。
 &苍产蝉辫;このような竞争的资金の导入がこの分野のめざましい进展を生み出しています。今日の学位论文の中でも、このような分野に直接あるいは応用面で関连するものが多数ありました。例を挙げてみます。
 &苍产蝉辫;医学研究科外科系専攻の中嶋正明(なかじままさあき)さんの学位论文题目は、「胚性干细胞移植関节において软骨组织の出现には力学的环境が重要である」です。主査は、戸口田淳也(とぐちだじゅんや)教授です。
 &苍产蝉辫;関节软骨は、10M笔补以上の高い応力を支えながら、极低摩擦状态での运动を可能にする高度の力学机能を持っています。本研究では、マウスES细胞をラット膝関节骨软骨欠损部に移植し、膝関节の力学环境変化による组织构筑の违いを観察したもので、ES细胞を移植した関节骨软骨欠损部の修復には、関节の相対滑り运动または繰り返し荷重负荷环境が重要な役割を果たすことが示唆されたものです。
 &苍产蝉辫;同じく内科系専攻の青井贵之(あおいたかし)さんの学位论文题目は、「成体マウス肝および胃细胞からの多能性干细胞树立」です。主査は、篠原隆司(しのはらたかし)教授です。
 &苍产蝉辫;iPS细胞はマウスやヒトの体细胞に4つあるいは3つの転写因子を导入することにより树立される多能性干细胞であり、胚性干细胞と同様に、ほぼ无限に増殖すると共に、さまざまの细胞に分化できるものです。iPS细胞は同一个体の体细胞から树立するため、伦理的问题が少なく、移植后の拒絶反応も回避できることなどから、再生医疗への応用が期待されるのみならず、创薬、病态解明研究のツールとしても有力であります。この论文で申请者たちは、成体マウスの肝および胃の细胞に、线维芽细胞と同じく4つあるいは3つの転写因子を导入することにより、iPS细胞を树立することに成功し、それによって、遗伝子の组み込みを伴わない、より安全な方法によるiPS细胞树立が可能であることが示唆されました。
 &苍产蝉辫;同じく脳统御医科学系専攻の林英树(はやしひでき)さんの学位论文题目は、「髄膜细胞はES细胞からドーパミン产生神経を诱导する」というものです。主査は、髙桥良辅(たかはしりょうすけ)教授です。
  この研究では、将来、硬膜?くも膜?軟膜に分化するマウス胎生14日の髄膜細胞を一次培養しました。髄膜細胞のフィーダーを作成してマウスES細胞との共培養を行うと、ドーパミン産生神経(tyrosine hydroxylase:TH陽性)が誘導されることを発見し、ES細胞からのドーパミン産生神経誘導機序の解明に貢献するものと評価されました。
 &苍产蝉辫;池田华子(いけだはなこ)さんの学位论文题目は、「胚性干细胞から神経网膜前駆细胞への分化诱导」です。主査は、影山龙一郎(かげやまりょういちろう)教授です。
 &苍产蝉辫;この论文は、マウス胚性干细胞(ES细胞)から神経网膜前駆细胞への试験管内での分化条件を検讨したもので、ES细胞からの神経网膜前駆细胞の効率よい分化诱导法の解明に贡献し网膜再生医疗の発展に寄与するところが多いと评価されました。

 以上のように、たくさんの新しい知见が皆さんの学位论文によってもたらされ、これらが知の蓄积となって、世界の人类の福祉のためにやがて活用されることになります。同时に京都大学博士の学位を得た皆さんは、世界の人类のためにその知の蓄积を进め、活用を进めていく研究者として今后とも社会で活跃する人材となります。そのような贵重な人材が大いに活跃する场を确保することが必要で、京都大学は若手の研究者のポストを少しでも増やすよう、今その方策を検讨しています。
 &苍产蝉辫;皆さんの健康とますますの活跃をこころから祈って、博士学位授与式での私のお祝いのことばといたします。博士学位まことにおめでとうございます。