尾池 和夫
本日、卒业される、2777名の皆さん、ご卒业おめでとうございます。ご来宾の名誉教授、ご列席の副学长、学部长、部局长とともに、皆さんのご卒业を心からお祝いいたします。あわせてご家族の皆様にも、こころからお庆び申し上げます。
京都帝国大学の第1回の卒業式は、1900年(明治33年)7月14日でした。土木工学の18名、機械工学の11名の計29名の卒业生で、文部大臣も列席する式典でした。1897年に創立の時の学生は47名でしたので、かなり少ない卒业生の数です。卒業証書授与式の木下廣次総長の式辞に「諸般の設備未だ其の半に達せず、学芸の教授に於て不便を感ぜしこと頗る多かりしに」とあるように、当初から大学の経営は困難な状況にあったことを見ることができます。
京都大学を卒業した方たちは世界の各地で、また日本の各地で活躍しておられます。本日卒業される皆さんを含めて、京都大学の111年の歴史の中で、卒业生の累計は17万9667名になります。世界のさまざまの場所で、京都大学を卒業して社会人として活躍し、あるいは大学院生として研究を続ける人たちに会います。この数年、私自身が出会った人たちを思い起こしただけでも、ラオスとの国境に近いベトナムの村で、大震災の後のインドネシアの村で、ボストンの町で、サウジアラビアの大学で、北海道の研究林や屋久島の観察ステーションで、また官庁や国会など、至る所に卒业生がいて、しかも活動の中心メンバーとして、あるいは教員やボランティアとして活躍しておられます。また、多くの地域で京都大学の同窓会支部を新しく組織して集まっていただきました。今日卒業の皆さんもぜひ同窓会などに積極的に参加していただきたいと思います。
皆さんの中には、2004年に入学した方も多いと思います。その年の入学式で私はいくつかのことを话しました。学问の自由ということ、人権を守るということ、地球と人の共存を生き方の基本とするということなどでした。
京都大学は、その基本理念の前文に、「创立以来筑いてきた自由の学风を継承し、発展させつつ、多元的な课题の解决に挑戦し、地球社会の调和ある共存に贡献するため、自由と调和を基础に、ここに基本理念を定める」と书き込みました。また、その教育の项には「対话を根干として自学自习を促し、卓越した知の継承と创造的精神の涵养につとめる」とあり、「地球社会の调和ある共存に寄与する、优れた研究者と高度の専门能力をもつ人材を育成する」とあります。その教育の成果を皆さんの一人ひとりが身につけて今日卒业されます。
もともと西洋で言う别诲耻肠补迟颈辞苍という言叶は「本来持っている才能を引き出す」という意味を持つ言叶で、これが京都大学の自学自习の精神です。京都大学での経験がこれからの皆さんの、あらゆる种类の活跃の场で、间违いなく威力を発挥します。基本理念では「自学自习」という言叶の前に「対话を根干として」とあるのを忘れないでほしいと思います。
昨年10月、京都大学は『京都大学讲义「偏见?差别?人権」を问い直す』という本を京都大学学术出版会から刊行しました。この出版の意図は、1994年から全学共通科目として「偏见?差别?人権」讲义を开设したり、さまざまの努力にもかかわらず、人権を无视する事件があり、科目担当者も自らが见直す过程を赤裸々に示して読者に问うという意図で生まれた本です。大学の手探りの试みとして広く批判を仰ぐものです。
また、「地球社会の调和ある共存」ということを、皆さんにも卒业にあたってあらためて考えていただきたいと思います。そして、皆さんの一人ひとりがこれからどのような道を歩こうとしておられるにしても、これを今后とも考えながら进んでほしいと思います。
先日、私は野生动物を研究する人たちのご案内で、屋久岛の周囲100办尘の海岸を廻ってきました。かつて、野生のサルを研究しようという学者たちがこの岛を访れたのは、1952年で、幸岛でニホンザルが最初に饵付けされるよりも前でした。川村俊蔵と伊谷纯一郎は、この年6月22日の早朝に安房の港へ上陆し、下屋久営林署を访ねた后、岛を一周し、宫之浦岳、永田岳に登顶して、7月12日に再び安房港より出帆しました。「京都大学霊长类研究グループ」の活动の一环でした。
屋久岛は日本に叁つある世界自然遗产の一つです。1993年12月に屋久岛と白神山地が日本で初めて世界自然遗产として登録され、2005年7月には3番目の世界自然遗产として知床が登録されました。
広大なアジアモンスーン域の中にあって、屋久岛は冬の北西モンスーンと夏の南东モンスーンの影响を受ける気候下にあり、雨の多い年には年间10000尘尘を超える降水量が観测されます。広い范囲に屋久岛花岗岩が分布し、南西诸岛の中で岛の大部分を花岗岩が占めているのは屋久岛だけという特徴があります。屋久岛には、京都大学霊长类研究所附属ニホンザル野外観察施设屋久岛観察ステーションという研究施设があります。屋久岛はニホンザル分布の南限で、海岸の照叶树林から九州の最高峰にまでサルが分布しているという岛です。私が访れたときにも北海道大学、神戸大学、奈良教育大学などからも、研究者や学生たちが来て、8人の研究者たちが、この観察ステーションを拠点にして岛の中でフィールドワークに従事していました。
京都大学では今年4月に野生动物研究センターが新しく教育、研究、社会贡献の活动を开始します。皆さんが京都大学に在学して急速に成长を遂げて今日の卒业式を迎えたと同じように、京都大学も皆さんの在学中に、どんどん成长し発展しました。昨年には、「こころの未来研究センター」が设置され、世界トップレベル研究拠点として「物质-细胞统合システム拠点」が発足し、さらに今年1月22日になってその拠点の中に「颈笔厂细胞研究センター」が设置されました。
このように京都大学は常に世界の先端を行く学問領域を開拓しながら、そこを拠点として知を創造し、知を蓄積、継承し、それを社会に届けます。皆さんも卒業して社会に出て企業で活躍し、ボランティアで活動し、あるいは起業して独立し、というように、さまざまの方向を目指していることでしょう。さらに学問の世界に進む方も多いと思います 。
やはり4年前の入学式で、「4年后に京都大学学士、6年后に京都大学修士、9年后に京都大学博士という学位が授与されます。长いようですが、一所悬命学习や研究をしていると、あっという间に経ってしまう9年です」と话しました。4年前は、国立大学が法人化して新しい仕组みが始まったときでした。そのときに心配した以上に日本の大学教育の体制は今、危机に濒しています。法人化する準备のときには予定されていなかった授业料の値上げが、まず皆さんの负担として持ち込まれたことを忘れることができません。
京都大学では、学部学生にも大学院の学生にも、すでに可能な限り多くの方策を用意して授業料の軽減や生活費の支援を実行しています。まだ決して十分とは思っていませんので、今後とも学生支援を充実する努力を継続的に重ねていきます。今日の卒业生の中には、京都大学大学院に進学する方もいるでしょう。京都大学では大学院でも多くの方法で学費を支援するよう用意してあります。とくに博士後期課程では、世界の将来を担う人材に、安心して研究に従事できるよう、私は本来優秀な学生全員に給料を支払うべきだと主張しています。事実、京都大学では多くの大学院生にさまざまの仕組みで給料を支給し、また今年からはその単価を上げることも可能となるよう制度と財源の検討を進めました。
何よりも大きな日本の课题は、大学院に进学した学生の热意に応じて、学习と研究に励んだ结果に、十分报いるだけの社会の仕组みが未熟だということです。もっとも重要な点を例としてあげますと、大学院を出て博士学位を授与された重要な人材を採用して、本来の力を発挥してもらうための场所が十分用意されていないということです。日本の公司は优秀な人材を无駄にしないように、もっと博士を採用する努力をしなければなりません。
京都大学は、この根本的な课题の解决を目指して、まず京都大学自身の努力で、若い研究者のポストを増やす方策を具体的に検讨するよう、京都大学の紧急课题として决意しました。若い研究者が给料を得て研究に取り组むことができるように、大学をあげて研究职のポストを増やすことを役员全员が最重点课题として取り组むよう决意しました。
奨学金、授业料免除、搁础、罢础、翱础などの仕事の提供、その他のさまざまの支援策はすでにかなり実行しています。それらの制度は、时々刻々と整备してきたために、たいへん复雑になっていて、必ずしも十分に利用されていません。まず、その支援の仕组みをわかるように示します。しかし、どのような支援をしても、それは在学中の支援であり、せっかく博士学位を得て本格的に研究に専念しようとしても、生活の基盘がしっかりと用意できなければ、安心して研究に取り组むことができません。今日卒业する皆さんの中から博士が生まれる顷には、しっかりとその努力の成果を受け止める大学となるよう努力を続けたいと思っています。
卒业して社会で活跃される方々には、さまざまの场所で、京都大学で身につけた自学自习の精神を活かして活跃しつつ、皆さんの母校である京都大学で学问を続ける研究者たちの応援もお愿いします。引き続き大学で研究を続ける方々には、优秀な人材を活かす大学であるよう、大学とともに知恵を绞りながら、研究の道に力强く进んでほしいと思います。
今后とも、からだとこころの健康を大切にして、ご活跃されることを愿って、京都大学学士の学位を得られた皆さんへの私のお祝いの言叶といたします。
ご卒业まことにおめでとうございます。