尾池 和夫
日中学长会议は、2000年10月にその第1回が东京で开催されて以来、本年5月に西安で开催されるまで计4回开催されてきました。この间の6年间にわたる日本、中国両国の主要な大学の学长の间で交わされた率直な议论は、双方の大学の参加者の间で大きな财产として引き継がれております。また、その间に筑かれたお互いの友情も末永く続くものであると确信しております。
日中両国の大学に课せられた使命は、この交流において培われた学长间の相互の理解や友情を础としながら、学长个人の枠を越え、大学として地球规模で生じる様々な问题の解决や地球社会の持続的な発展のための努力にあります。现在、アジアを含む世界は大きく変动し、また新たな问题も生じています。例えば中国における急激な経済発展は、新たな需要を生み出し、日本および他のアジア诸国の経済的な好循环をもたらしましたが、同时にかつて日本がその経済発展の途上で経験した环境への影响も、アジア诸国が一体となって解决すべき问题として浮上しつつあります。そして両国の大学は、このような新たな问题に対し、相互の协力による解决の努力を惜しんではならないと考えます。
大学は、広く言われるように知を创出する场です。そこで产み出される知は単に生活に便利な机械や道具を作り出したり、経済的利益を生んだり、人々の病を治疗したりするといった直接的な成果を得ることに留まらず、人间が本来备えている知的な探求心を満たし、人々の心を豊かにするものでもあると考えます。そしてこの大学がもたらす知は、地球上の异なった歴史文化を持つ人々の间の相互理解や共通の利益に向けた协力を促すものであり、京都大学がその基本理念として示す「地球社会の调和ある共存」に贡献するものでもあります。
中国で言われているように、地球社会の调和ある共存のためには、物质文明、精神文明、政治文明、生态文明が融合発展する必要がありますが、先日、王生洪学长をはじめとする復旦大学代表団が京都大学に来られたときの讨论では、これらに第5の文明として、「学术文明」という考えを加えるのがいいという意见が出て、大いに议论がはずみました。そこに両国の大学が协力して果たすべき大きな役割があるという点で、私たちは共通の理解を得ました。
よく言われるように、20世纪には、地球の持つ物质资源とエネルギー资源を使って、文明が発达しました。知财の観点からは、その文明の発达のために、长期间にわたる人类の知的活动の蓄积が十分に活用され、とくに物理学や化学、20世纪の后半に生物学が活用され、生命科学という人类史上でも画期的な学问体系が确立されました。そのような文明の発达と観测技术の発达とともに、オゾンホールの発见などに始まる地球环境の危机が明确に认识されることとなり、エネルギーと资源の贮蔵量の限界の认识とともに、21世纪の人类に多くの课题が存在するという世界の人々の共通认识がもたらされました。食料、エネルギー、环境に関する问题、固体地球内部の资源、水资源、地上の木材资源など、あらゆる资源の问题などがありますが、中でも水や植物资源の问题は日中両国にとっても、とくに重要な问题であろうと思います。
例えば、2002年に世界で伐採され回収された木材は、33億 8439万立方メートルでした。先進国では、製材、パルプ材、ベニヤ材などの産業用材が主であり、途上国では薪炭材として消費されています。世界の木材生産量の順位を見ると、1位アメリカ、2位インド、3位中国です。輸入量では1位はアメリカ、2位が中国、3位が日本です。世界の森林は、1990年から 2000年の間に、約9400万ヘクタールが減少しました。その96パーセントがアフリカと南米だといわれます。世界の森林の95パーセントが天然林で、人工林は5パーセントですが、世界で消費される木材のほとんどが、人工林で賄うことができる量だと言われます。世界の人類に与えられた課題は、要するに人工林の管理をうまくやることによって、世界の天然林を守るということであります。それは一つの例ですが、このような日本と中国の両国に共通に存在する問題の認識とそれに対する解決が、日中両国の大学に与えられた研究と教育の課題であると思います。そのために両国の大学が情報を共有しながら教育と研究を協力して進めていくことが重要です。
また、経済の観点からは负の要因となる自然灾害についての情报を共有し、21世纪の自然灾害の軽减に努めることが必要であると考えます。例えば、地震や火山喷火、洪水の灾害を世界の记録で见てみればわかるように、世界史上最大规模の地震灾害は1556年に西安の近くに発生した地震による、83万人の死者であります。また20世纪最大の震灾も中国で、1976年の唐山地震であり、24万2千人の死者を出しました。2位も中国の海原地震、3位は関东大地震です。中国も日本も、プレートが集まってきて、岩盘が圧缩され、変动帯が形成される地域にあり、また中纬度の気候に影响を受ける地域にあります。一方に水害があれば、他方には旱魃の被害があり、一方に火山喷火があれば、他方に震灾があるというような地域です。黄河や长江の洪水も大きな被害をもたらせます。喷火灾害の最も大きい影响を受けるのはインドネシアですが、日中両国の大学はこのような东南アジアなどの地域との连携も発展させていく努力をしなければなりません。
1998年の日本、朝鲜半岛、中国の水害は大规模でした。1998年9月10日発行の中国の「水害救援」切手は、50分の切手に50分の寄付金タブが付いていました。1991年の洪水では死者が2300人に达し、そのときには、握手する手とハートが描かれた80分切手が発行されました。その切手には「一方有难、八方支援」という文字が入っていました。この标语は、中国で震灾の街を歩いたときにもよく见かけました。
世界の他の地域にはない例もあります。今年、2006年の春の黄砂现象は大変なものでした。中国、日本、韩国、モンゴルの协力で、黄砂に対する対応の研究を进めることが必要であり、そのような动きを大学として支援していかなければならないと思っています。
水を确保することは中国にとっても、日本にとっても、大変に重要な问题です。水を日本は大量に输入しています。间接水という呼び方がありますが、食料や木材の形で水を大量に输入しているのです。中でもアメリカからは、427亿立方メートルの水を毎年输入していて、大変目立っています。その次がオーストラリアの、105亿立方メートルで、いずれも牛肉を生产するための小麦の栽培に使う大量の水であります。日本人は、生活用水の直接の给水量も多く、毎日1人あたり322リットルの水を使います。アメリカの425リットルに次いで多い国です。ちなみに、エチオピアでは、たった9リットルです。例えば、このような水の问题だけをとり上げてみても、大学にとって考えるべきことはいくらでも出てくるのです。
平和と平等の问题や、人のこころの问题の认识と、それに基づく教育と研究も重要な课题です。それには自然科学の进歩だけではなく、社会科学と哲学の発达が必要であり、また歴史に関する研究成果の情报の共有と议论が必要です。それらをリードしていくのが大学の役割であろうと思います。
日本と中国は汉字圏の文化を共有しています。かつて遣唐使は、海外情势や中国の先进的な技术や仏教の経典等の収集を目的として日本から中国へ派遣されました。第一次遣唐使は、630年でした。それ以来たびたびの派遣で、日本は中国から多くのことを学び、それは日本人の思想の背景として定着しています。その文化には西洋の思想にはない独特のものを持っていると思います。日本と中国の大学では、両者の协力によって、その东洋の思想をしっかりと踏まえつつ、西洋の文明と东洋の伝统的な考えの融合をリードしていくことが重要であろうと思います。
例えば、自然科学を论じるとき、现在の国际语となっている英语で讨论する技术を教えることも重要ですが、汉字圏の文化として、汉字で自然科学の先端の知识が表现できるように、常に先端の科学の成果を自国语でも易しく表现して、自国の市民に伝える努力を専门家に求めていきたいと思っています。それとともに、日中両国の大学が协力して科学の新しい知见を汉字で表记するよう、共通の表现を求めていくことが重要であろうと思います。
京都大学が鋭意取り组んでいる「21世纪颁翱贰プログラム」の23课题の中の1つに「グローバル化时代の多元的人文学の拠点形成」というのがありますが、そこでは、「激しい移行过程にある现代世界を批判的に再検讨し、新たな指针を模索するというグローバル化时代の総合的、かつ多元的な人文学的知の形成という课题に、歴史学を中心に、哲学、文学研究を组み合わせて挑むことを最大の目的とする」と述べられています。
1897年に创立された京都大学も、この復旦大学も、ともに100年以上の歴史を持ち、东アジアの主要大学として活动しています。京都大学への最初の外国人留学生は1903年に中国から来た学生だったと言われています。私自身が上海を初めて访问したのは、まだ日中间に直行便の飞んでいない1974年でした。それ以来の上海の発展には目を见张るものがあります。
世界の大学は新たな局面を迎えています。アメリカ合众国においては国を挙げて竞争力を高める论议が交わされ、连邦政府の研究开発投资や科学?工学分野における人材育成のための施策が强化されており、また外国人留学生の获得に政府が力を入れています。また、ヨーロッパにおいてもそれぞれの国の伝统に立脚する形で大学の教育研究水準を高める様々な试みがなされるとともに域内の学生の流动性を高める努力が行われています。最近では、高等教育を输出产业として国策に位置づける国も现れるようになりました。
目をアジア诸国に転じますと、米欧诸国との间の人材の流动性の高まりやアジア域内の教育制度の拡充により多くの优れた研究人材が育成され、またそれらの人々の活跃の场としての大学の役割が益々重要となっています。そして大学の组织も大きな変革を経験しつつあります。日本における国立大学の法人化、そして中国における985工程といった大学改革の努力は世界から注目されています。
日中大学学术フォーラムは、このような情势を背景に両国の主要な大学の研究者が率直に问题を讨议することを目的として开催されます。「イニシアチブとパートナーシップ-日中大学の新しい使命」という标题に示されるように、両国の大学は知の创出と地球的规模の问题の解决のために主导的な役割を担い、相互に连携していくことが求められています。本フォーラムにおいてはアジア太平洋地域の経済発展のための知の创出と、日中友好における大学の使命と役割について论议が展开されます。両国の主要大学から多くの卓越した研究の成果が报告され、その成果が日中両国の友好と世界の安定した発展に结びつくことを心より愿っております。
最后に、主催者の一人として、多忙な时间を割き出席いただいた参加者の皆様に深く御礼申し上げますとともに、本フォーラムの开催に尽力された王生洪学长をはじめとする復旦大学の皆様に心から感谢いたします。
ありがとうございました。