尾池 和夫
立冬も過ぎてようやく今年は京都大学のキャンパスの楓も色づいてきました。京都大学の百周年時計台記念館を訪れる観光客も一段と多くなっています。本日、「京セラ文庫『英国議会資料』」開設式にあたり、稲盛和夫名誉会長はじめ京セラ株式会社の皆さま、人間文化研究機構の長野 泰彦理事、国立民族学博物館の松原 正毅名誉教授、そして学内の理事、部局長など、関係の皆さま方には、ご多忙の中にもかかわらず多数ご臨席を賜り厚くお礼申しあげます。開設式にあたりまして、京都大学を代表してひとことご挨拶申しあげます。
「京セラ文庫『英国議会資料』」は、英国の議会、上院?下院に提出された資料を集めた約1万2700冊余りの資料集成です。1801年から1986年までの下院文書、そして1801年から1922年までの上院文書、総計約800万ページからなる、原本のまま閲覧できる世界で最も完全な英国議会文書とうかがっています。その中味は、上下両院のさまざまな委員会報告、省庁による報告書、会計報告書、統計書、外交文書、法令などですが、イギリス本国だけでなく、19世紀から20世紀の激動の時代に版図を拡大した大英帝国の植民地、さらにはその他の世界諸地域の政治、経済、社会、文化についての詳細な報告を含んでいます。いわば、近代と呼ばれる時代が形成され、そしてその変容に至るほぼ2世紀の期間に、イギリス議会が何を重要な検討課題として議論をしていたかがこの資料からうかがうことができるわけで、19 世紀以降の近代世界の成り立ちを知る上で、第一級の資料であると誰もが認める資料群であります。
この资料が「京セラ文库『英国议会资料』」として冠名をつけていることについて、若干の説明が必要かと思います。もともとこの资料はイギリスの旧商务省が所蔵していた资料であったとうかがっています。そしてこの贵重な资料が、1998年3月に京セラ株式会社から、当时、国立民族学博物馆に设置されていました地域研究企画交流センターに寄赠され、その后、一般の利用に供されてきました。広く一般に公开するということをモットーに、寄赠をうけた地域研究企画交流センターおよび国立民族学博物馆がこの资料群の公开のための补修を行い、「京セラ文库『英国议会资料』」と名付けたわけであります。その后、地域研究组织の再编のなかで、民博にありました地域研究企画交流センターを廃止し、京都大学に新たに地域研究のための研究センターを设置することとなりました。そして、本年、2006年4月に地域研究统合情报センターが、地域研究関连の研究组织としては3つめの部局として、発足することになりました。东南アジア研究所、大学院アジア?アフリカ地域研究研究科に次ぐ第3番目の地域研究関连部局ということになります。この组织再编のなかで、世界の诸地域を対象に研究する地域研究の贵重な资料として、「京セラ文库『英国议会资料』」が人间文化研究机构から京都大学に移管されることとなり、京都大学は、现在、人间文化研究机构に属している国立民族学博物馆が名付けられたこの名称とともに资料を継承することにいたしました。组织再编に関わる経纬を织り交ぜますとややこしくなりますが、要するに、「民博が京セラさんから寄赠を受けた资料をその名前を含めて京大が継承することになった」ということであります。
さて、一口に「継承」ともうしあげましたが、実际の移管作业は、そう简単ではありませんでした。いかに京都大学とはいえ、1万册をこえる贵重な资料、しかも酸性纸を含む约200年前から続くこの贵重な资料をすぐさま収纳するスペースをそう简単に準备できたわけではありません。新设された地域研究统合情报センターにはもちろんそれを収纳するだけの十分なスペースがありませんでした。移管にあたっては、民博がそうしてきたように、恒温恒湿装置を备えた特别な书库が必要だということになり、附属図书馆のご协力を仰いで、地下の书库に、あとで皆さまにご覧いただく特别な収蔵库を準备しました。収蔵库が完成し、物理的な资料の引っ越しが终わったのは、新センター开设间际の昨年度末のことでありました。
また、资料の「継承」にともなって、この资料をより広く研究者や学生、そして一般の方々に利用いただいて研究?教育に役立てていくという课题を京都大学がいただいたということになります。多数の本を「継承」したというだけでなく、それを広く一般の利用に供していく、しかも使い胜手のいいように公开していく、このことがこれからの京都大学の责任となるといわねばなりません。ご存知のとおり、京都大学には、国宝「今昔物语集」をはじめ古典、絵巻物、地図、歴史文书等々、多数の贵重図书?贵重资料が所蔵されています。これらの资料も附属図书馆等で必要な手続きをとって公开されていますが、いま京大では、これらを画像资料としてウェブサイトからアクセスできるシステムを开発して、一层の公开に努めています。京都大学は、この「京セラ文库『英国议会资料』」を贵重図书として受け入れたことになりますが、京都大学に「京セラ文库『英国议会资料』」が移管されたことによってさらにその利用が盛んになったと言っていただけるような环境づくりを进めていくことが、课题にこたえていく一つの方向であろうと思っております。
この资料は、附属図书馆に所蔵されますが、その管理?利用に责を负うのは、新设された地域研究统合情报センターです。『英国议会资料』を活用したさまざまな分野の研究があると闻いておりますが、新センターは全国共同利用研究施设としてこの资料を利用した共同研究を组织しつつあります。また、この资料そのものを縦横に渉猟できる検索ツールの开発が今后、必要です。今年度に入って、新センターからこの资料を利用したさまざまな研究计画が企画されつつあるとうかがっており、京都大学としても支援していく所存です。新センターの名前は、地域研究统合情报センターという、いささか长ったらしいものですが、文字通りに受けとめますと、さまざまな地域にかかわる地域研究を推进し、その地域に関わる情报を统合していくのが研究センターのミッションであると言えるでしょう。新しい研究センターの名称は、まさにこの「京セラ文库『英国议会资料』」の今后の活用にふさわしい名称ではないでしょうか。情报技术との融合を図りながら、新しい手法によってこの资料の存在価値がさらに高められるよう、新センターの皆さんが今后、この资料を活用したさまざまな研究分野の开拓に取り组まれることを期待しています。そして先ほど申しあげたような环境作りを推进して、この资料の存在を十分にアピールしてほしいとも愿っております。
最后になりましたが、この贵重な资料を京都大学が所蔵する端绪を创っていただきました京セラ株式会社の皆さま、资料の补修を通じてそれを公开する状态にまで整理いただいた人间文化研究机构国立民族学博物馆の皆さま、そして资料の移管にあたってご尽力いただいた人间文化研究机构ならびに京都大学の関係の皆さまに心からのお礼を申しあげ、ご挨拶といたします。