尾池 和夫
京都大学の授业料の検讨にあたって(所感)
京都大学総長 尾池 和夫
京都大学では、2005(平成17)年2月17日に「平成17年度授业料について」として、役员会の决定を公表した。
平成17年度政府予算案に、国立大学の授业料标準额を15,000円値上げすることが盛り込まれている。この政府予算案の国会での审议の结果を待って、授业料に関する方针を决定するのが本来の顺序であるけれども、平成17年度の本学の授业料がどうなるかについて、受験生に早く知らせる必要があると考え、京都大学の方针を决めた。その内容は、文部科学省令の改正により授业料の标準额が改定された场合には、改定标準额と同额の授业料とし、同时に、学生に対する支援策として、现行の授业料免除制度に加えて、経済的事情により修学困难である学生に授业料减免措置を讲じる予算を约3千万円用意するというものである。
本学に内示された平成17年度予算案では、本学の运営费交付金の中で、すでに授业料标準额の改定による増収额に相当する约3亿円が削减されている。これは国立大学法人化にともなって次つぎと课せられてきた経费削减のさらなる上乗せでもある。
今までに、まず法人化初年度の交付金の算定が平成14年度の経费を基に算定されたとき、大幅に削减されたという実感が私にはあった。その中には非常勤讲师の手当がまったく措置されなかったり、さまざまな大きな変化が含まれていて、大学の运営上深刻な问题が発生し、それらを次つぎと処理する必要が生じた。
次が教育研究経费の効率化係数という名目で、毎年1%の削减方针が平成16年度の予算编成中に导入され、さらに経営改善係数という名目で、毎年、附属病院収入の2%に相当する交付金の削减方针が决まった。それにさらに加えて、今回の授业料分の约3亿円の削减方针が突然导入されたのである。
これらの连続した大幅な交付金の削减は、本学の教育研究の质の维持にすでに重大な支障を来しており、将来にわたってその影响が悬念されることから、今回の决定を行わざるを得ないこととなった。
1960年代、私が学生のころ、京都大学の授业料は年额9,000円だった。大学院が13,500円で、それでもアルバイトしながら、実家の家计に远虑がちに支払いを頼んだ。それが今度の改定で、学部と大学院で授业料は年额535,800円となる。法科大学院は据え置きであるが804,000円である。
国立大学の授业料はすでに大変高额になっている。そもそも世界的には、高等教育の无偿化が呼びかけられ、国连の国际人権规约にも渐进的无偿化が謳われている。それにもかかわらず、日本はこの条项を留保しているたった3つの国の1つであり、2001年にも留保の撤回が勧告されているほどである。
现在は物価が安定しているときであり、失业率も高く、家计の収入の増大は困难な时期である。授业料免除の制度があるが、入学するまで受けられるかどうかはわからず、结局は进学をあきらめるという若者もいるであろう。
私は国公私立大学を通じて、高等教育に国はもっと経费をつぎ込む必要があると考えており、国立大学の授业料も増额改定とならないよう、あらゆる机会に働きかけてきた。本来、国の将来のために高等教育を実施しているはずであり、国策として教育予算を考えて行くことが必要である。高额の授业料の设定は、教育への家计负担を増やし、それはすでに我が国の少子化を招いている。また、诸外国では留学生を受け入れて大学経営を発展させようとしており、日本よりはるかに安い学费と生活费で、日本の优秀な若い人材を大学入学年齢から诱致しようとしている。今の国の方针が改善されないと、これらの倾向は今后ますます强められることとなり、科学技术立国の方针にも重大な支障を来すなど、近い将来、わが国にとっての大きな问题となるであろう。
国立大学法人移行期では安定した交付金によってスムーズな移行を进めるという国会审议などでの约束があった。授业料の改定が私立大学との格差を缩めるという名目のもとに実施された歴史を、ただくり返すだけという今回の改定は、国立大学法人化の意义に反するものであり、しかもその改定を交付金の削减という诱导によって、国立大学自身の决定で、大学自身に説明させるという仕组みが、大学に大きな影响を与えている。标準额の改定は文部科学省令によるが、その省令はまだ改正されておらず、しかもその改正予定は昨年末に事务的に知らされて準备するようにと进められてきた。この方式は、国立大学相互间の関係にも良からぬ影响を与え、国立大学协会での议论と対処などをも困难にするものである。
国立大学の授业料を上げる论拠とされているのは私立大学の授业料との格差であるが、その比较対象は私立大学の授业料の平均値である。したがって、すでに国立大学よりも分野によってはかなり授业料の安い私立大学が存在している。授业料の安い大学で、国立大学入学试験の5教科7科目を课す方针と异なり、入学试験の科目の少ない大学があれば、高等教育の质を一定水準以上に保つことが困难ともなる。このようなことが廻り廻って小学生の理科离れなどを引き起こす。
文部科学省としては标準额改定による交付金の减额を他の种类の予算の増额によって取り戻す努力をしたと説明する。しかしそれは例えば、授业料収入の割合が大きい地方大学から大规模大学への资金の移动を诱导することになるなど、大学间格差のますますの増大につながる可能性もある。
昨年5月の段阶で受益者负担という声が闻こえ、私は同志社大学长や立命馆大学総长たちと教育予算の増を诉える文书を発表したことがある。今回の改定は、8月段阶での文部科学省の概算要求には授业料の改定は组み込まれていなかったにもかかわらず、その后の财务省とのやりとりの中で持ち込まれた仕组みによるものである。「事务连络」という形で国立大学に通知があって、国立大学の授业料标準额の改定はないものとして、次年度の大学运営を準备していたところへの突然の通知に、大学运営は大いに混乱している。
国立大学协会でも、昨年12月8日の临时総会において、「学生が、経済状况に左右されることなく、能力?适性に応じて进学できる机会を确保するという国立大学の役割を果たすため、中期计画期间における学生纳付金の値上げは容认できない」として「学生纳付金标準额の据え置き」を诉えた。また、今年2月3日には、国立大学の授业料値上げに反対する大学教员からの意见広告も出された。
国立大学协会の理事会では、今年2月16日、「国立大学法人制度の活力ある発展のために」という文书を确认し、その中で次のように述べた。
「国立大学は、昨年4月に法人化され、现在各大学は、自らの判断と责任により教育?研究活动の更なる向上を目指して、法人化のメリットを最大限活用して学内における诸活动の改善?改革に取り组んでいる。しかし、新しい内部组织の运用は始まったばかりであり、いわば试运転の途上であって、教职员の意识改革と合わせ未だ不安定な段阶にある。
国立大学协会では、かねてから、少なくとも各国立大学が未来に向けて水平飞行に移るまでの间は、安定した予算の确保が无ければ改革の机运が失速することを恐れ、安心して改革に取り组めるような政府の制度运用と予算措置を要请してきた。
国立大学法人への移行は、歴史的な大改革であった。各学长は、现场での具体的な问题の処理をとおして、法人化の意义や问题点を改めて确认する贵重な体験を积み重ねた。その中には、法人に与えられた自主性、自律性とは何かの基本的な问题も含んでいるが、少なくとも平成17年予算に组み込まれた国立大学の授业料标準额の改定は、各学长にとっては想定外の出来事であった。」
このとき、运営费交付金の効率化係数による削减の上に授业料値上げ分も见込んで削减されるため、ほとんどの国立大学ではすでに「苦渋の选択」として、授业料の値上げの方针を决定していた。国立大学を法人化する际に「法人化によって学生の负担増はさせない」としていた国会での文部科学省の発言は、一年もたたないうちに反故にされてしまおうとしており、国立大学の运営の困难と授业料値上げの説明の责任を负わされた学长たちは怒りの気持ちを押さえるのに努力しなければならない状况となっている。
教职员や学生にも今回の授业料标準额改定を含む予算案には反対の声が多い。以前のように反対运动のデモを実施したり署名运动を街头で行うという形の世论形成をする倾向は少ないとはいえ、京都大学では今回の役员会の検讨に先立って、学生自治会からの説明会开催の要求や学费の値上げ反対、あるいは学生支援の仕组みの导入などの意见の提示があり、役员会としてこれらも十分考虑して検讨を行った。
现在国会での予算审议が行われているが、その中でも大いにこの高等教育の予算の问题を取りあげて议论し、交付金予算の组み替えをしてほしいと愿っている。组み替えができれば、授业料の设定を今年度と同じにすることができるようになる。
国民を代表する国会议员の方々にも、また市民の皆様にも、教育は国の责任で、国の将来のために行うものであるということをもう一度よく考えていただきたいと切望する。
2003年6月10日の第156回国会文教科学委员会では、时の远山文部科学大臣が「学生にとって今回の法人化によって授业料が高くなってしまったり利用しにくくなったりということは、これは絶対避けなくてはいけないと思っています」と述べ、河村副大臣も「授业料等については、これからこういう时代であります。ましてや、デフレ経済のさなかにあるわけでありますから、むしろ抑制ぎみに考えていかなきゃなりません」と述べた。
また、2003年の国立大学法人法の国会审议では、7月9日参议院での可决に际して、付帯决议が付けられ、その中に「学生纳付金については、経済状况によって学生の进学机会を夺うこととならないよう、将来にわたって适正な金额、水準を维持すること」とある。
今国会の中でも、これらの経过をしっかりと踏まえて、次年度の国立大学への交付金を検讨するよう强く诉える。
京都大学として、今后とも努力して学生をできるだけ支援したいと考えている。外部资金の获得に努力し、引き続き経费の节减に努め、京大ファンドなどの仕组みを导入して広く支援を求めたいと考えている。これらに多くの市民の皆様のご理解とご协力をさらにお愿いしたい。大学で実施されている研究と教育、その成果の蓄积を広く知っていただくためにさらに広报に努め、开かれた大学を目指し、社会贡献に努めたいと思う。研究成果に基づく教育を行うことが京都大学の最大の社会贡献であるが、その幅を広げて、さまざまな计画を実行していく所存である。
また、大学内においても、今回の役员会の决定についての教职员、学生の理解と协力を求める。学生の皆さんには次の世代を担う人材として活跃してほしいと愿っている。そのため、学生の支援策として有効な考えがあれば、积极的に提案してほしいと思っている。
(2005年2月22日)