尾池 和夫

本日、京都大学博士の学位を得られました课程博士89名、论文博士59名の皆さん、おめでとうございます。ご列席の副学长、各研究科长、教职员、ご家族のみなさまとともに、今日まで昼夜を分かたず努力を重ねてこれられたみなさんの尊い研究成果を讃え、新しく诞生した京都大学博士のみなさんの学位取得を心から、お祝い申しあげます。
&苍产蝉辫;京都大学の基本理念には、教养が豊かで人间性が高く责任を重んじ、地球社会の调和ある共存に寄与する、优れた研究者と高度の専门能力をもつ人材を育成する、とあります。みなさんはその理念のもとに、京都大学博士の学位を授与されました。
昨年末から今年の初めにかけて、メディアが伝えたのは、アンダマン?ニコバル诸岛の地下に起こったマグニチュード9.0の巨大地震と、インド洋沿岸の大津波による大灾害の状况、それに10年前に起こった兵库県南部地震による阪神?淡路大震灾のその后のことでありました。いずれも固体地球表层のプレート运动がもたらした自然现象とそれによる灾害であります。
&苍产蝉辫;本日の式辞を述べるにあたって、私は基本理念にある地球社会の调和ある共存ということを、この二つの自然现象と灾害のことから、もう一度思い起こしてみたい考えました。それは、地球に住む人の社会が地球の自然现象と共存していくために、地球のことをよく理解し、人のことをよく理解していくことが必要だと思うからであります。
&苍产蝉辫;地球や人のことを深く知るということは、大学で行われる研究の役割であり、その研究成果が大学に蓄积されていきます。その蓄积が教育を通して世界の人々に伝えられます。その教育も大学の大きな役割です。このような研究や教育は国の将来のために、あるいは世界の人々に日本が贡献するために、国が积极的に进めていかなければならない事业であり、その结果からもっとも利益を得るのは将来の国であり、世界の人々であります。受益者负担ということばを使って国立大学の授业料を上げる政府の方针は、容认できないと私は思っています。
さて、今回の学位授与式では、人を理解するために、人をキーワードとする研究成果のいくつかを、学位论文の审査报告の中から取りあげて绍介したいと思います。
よく、人间だけが文法を持つとか、人间だけが音楽の世界を楽しむことができるとか、さまざまな人间の特性が论じられます。また、そのような人间の社会とは独立に自然现象を理解する科学が进んできました。21世纪においては、これらを総合的に把握しながら共存を考えていこうという态度が重要であります。
社会健康医学系専攻(専门职学位课程)では、保健?医疗?福祉分野における専门职あるいは教育研究职につく人材を养成します。また博士后期课程では、社会における人间の健康や疾病に関わる问题に挑戦するために教育?研究に携わる人材を养成します。
医学研究科社会健康医学系専攻の赤松 利恵(あかまつ りえ)さんは、「日本人労働者における健康的な食生活に対する解釈と態度」という論文をまとめました。主査は佐藤俊哉(さとう としや)教授です。
日本人の健康的な食生活観に関する知见がないことから、この论文では、日本の成人男女を対象に、「健康的な食生活」に関する解釈や态度を、面接调査などを行いながら研究しました。调査の対象者(成人男女)は、健康的な食生活にとって、「栄养バランスのとれた食事をとること」と「野菜をたくさんとること」が最も重要であると考えていること、「健康的な食生活」と考えられる食行动は「食生活と食习惯」および「食物と栄养」という2つの因子で构成されていることがわかりました。また、これら因子に関连する対象者の特徴は、因子ごとに异なり、「食物と栄养」に関する因子のみ、食事疗法および过去の栄养指导経験が関连していたということがわかりました。
この研究では、京都府宇治市の职员という职种と年齢の限られた成人を対象としていますが、その调査结果は、欧米で报告されている「健康的な食生活」に対する解釈や态度と异なっており、目本人の食生活习惯に関する特性が反映されていると考えられ、またこれには栄养教育が関连している可能性が见られました。
日本は先进诸国の中でも平均寿命などで最良の状态をたもっていますが、その要因の一つとして食生活は世界からも注目されています。そのような中で得られた新しい知见は、この分野での研究の进展に贡献することになるでしょう。

教育学研究科臨床教育学専攻の岡本 直子(おかもと なおこ)さんは、『「ドラマ」がもつ心理臨床学的意味に関する研究』という論文を仕上げました。主査は藤原 勝紀(ふじわら かつのり)教授であります。
この论文の第1部では、研究目的と意义について、第2部では、调査による定量的研究の成果、第3部では、心理临床の実际に近い枠组みからの调査研究で、数量的には测り得ないドラマのメカニズムや表现する意味に関する研究へと展开し、第4部と第5部で総括して、方法论的な可能性と今后の课题をまとめています。
人生は、しばしばドラマに例えられますが、心理临床の场は、その缩図とも考えられるとのことです。この研究では、心理临床の场で観察される飞跃的に変化する剧的な心の现象に注目して、その现象を「ドラマ」と捉えて、心理临床学的に考究したものであります。自らの临床経験の现実において可能となる研究法によって课题を発见し、统计调査からの研究を积み重ね、それを超えて动态的、临床実践事例的な研究へ向かった成果として、新しい提案を含む论文が仕上げられました。博士论文の望ましいモデルとしても评価される论文でありました。
文学研究科行動文化学専攻の倉島 哲(くらしま あきら)さんは、「身体技法と社会学的認識」という論文を提出しました。この論文の主査は寳月誠(ほうげつ まこと)教授です。
この研究は、武术教室における技の学习を题材にしたもので、身体论、身体技法论の分野に新たな理论的视座を导入しようとしたものであり、刺激にみちた论考であると评価され、また、この研究では、その手法の一つとして、武术教室に4年数ヶ月にわたって参加して観察するという、长期かつ彻底した方法がとられており、その点でも従来の身体技法の社会学的研究のレベルを超えていると评価されました。「いかなる身体技法といえども、それが形成されるのは个々の行為者の具体的な実践をおいてない。同様に、身体技法が働きかけるのも、実践における具体的な人や物をおいてないはずである」という考えが出発点に置かれています。このような具体的な実践に対する视点がこの研究の大きな特长であり、研究の题材と研究の手法の両面から见て、たいへん特徴的な研究であると思います。
审査报告でも、この论文の优れた特徴について、その理论的视座に関わるものや长期の参与観察にもとづく膨大なデータを駆使した研究などがあげられています。とりわけ、「一见して同じに见える型や技が、练习のなかで多様な姿として现象することを、技の「有効性の微分」现象ととらえて、详细に考察した点は、本论文のもっとも刺激的なデータ分析である」という报告にそれが现れておりました。
人間?環境学研究科文化?地域環境学専攻の山﨑 茂雄(やまさき しげお)さんの論文は、「芸術文化支援と公共政策-市民社会の合意形成に向けた文化支援システムをめざして」というもので、主査は足立 幸男(あだち ゆきお)教授です。
わが国における文化?芸術政策の現状と問題点を、「ア一ティスト.イン?レジデンス(Artist in Residence)」と呼ばれる芸術家支援施策を事例として、文化経済学、文化政策学の観点から分析し、解明したものです。この施策は、国、自治体、企業、大学などが、将来性あるアーティストを一定期間招聘して、その活動のための時間と空間を提供しようとするプログラムです。
この论文は、より多くの人的、物的资源を投入すれば、その分だけ文化?芸术のレベルは向上するはずという考えを「神话」として、破绽状况にある财政のもとでの文化?芸术支援とはどのようなものであるかという课题に対して従来の文化?芸术政策研究が取り组もうとしてこなかったことへの批判から出発しています。结论として重要なことは、文化?芸术活动に対する公的(杜会的)支援には、地域経済を活性化させ豊かな地域文化を発掘?育成するという潜在力がありますが、文化?芸术支援のために自ら応分の、金銭、労力の负担をしようということが、広く市民に共有されるのでなければ、潜在力のままで终わってしまうということであります。1人でも多くの市民が、文化?芸术支援活动に参加し、ネットワークが形成されるために、大学も役割を果たさなければならないと、あらためて考えさせられる论文でありました。
ここに绍介したのは、みなさんの研究の一部であり、一面でありますが、みなさんの博士学位论文は、みなさん一人ひとりの人生の记念碑であり、また、同时に京都大学の知の蓄积の一部ともなるものです。その内容はさまざまな方法で公开され、世界の人々にさまざまな形で贡献することになります。
みなさんは今日から京都大学博士と呼ばれます。この学位を得るために、今日まで、特定の分野を深く掘り下げて论文にまとめられました。今后はさらにそれを深めるとともに、一方では视野を思い切り広げてさまざまな分野に触れ、それらを総合して得られる広い视野を持って学问を志してほしいと思います。
本日新しく京都大学博士になられたみなさんも、知の蓄积と自らの研究成果とを世界の人々に伝える教育にも活かして、さらなる研究の进展をはかり、地球社会の共存を目指して活跃されることを愿って、私のお祝いの言叶といたします。
博士学位おめでとうございます。