第30回イギリス?ロマン派学会全国大会 挨拶 (2004年10月16日)

尾池 和夫

【イギリス?ロマン派学会会長の鈴木 雅之先生が、私の俳句のこと、専門の地震学のこと、時計台記念館の地下の免震装置のことなどを紹介してくださったのを受けて、開催地からの挨拶をしました。それを再現し加筆したものです。】

 イギリス?ロマン派学会の创立30周年まことにおめでとうございます。开催地を代表して第30回の学会の开催をお祝い申し上げます。
 私の専門分野は自然科学、地球科学の分野でして、イギリスのロマン主義の時代と言いましても、直接的に詩人や劇作家の作品に触れる機会はあまりなくて、せいぜい出口 保夫先生の紅茶のエッセイを読んだりするくらいです。
 しかしながら、私はさまざまなことを比べるということが好きで、いろいろな比较をするとき、例えば时间轴をたどって、时系列で歴史を见るとき、イギリス?ロマン派の时代が物差しとして登场します。
 イギリス?ロマン派の时代は、科学の世界では、18世纪の中顷にフランクリンが雷の正体を考えて実験をしたり、ワットが蒸気机関を考えたり、それから、主要な元素である、水素(1766年、キャベンディッシュ)、窒素(1772年、ラザフォード)、酸素(1774年、シェーレ、プリーストリ)などが発见されたりしたことがあげられ、产业革命の始まりであり、近代の科学と技术の全盛期が始まろうとするときであります。19世纪になると、1820年には电流の磁気作用(エールステッド)、1827年には、电気の学习の最初に出てくる、电流と电圧と抵抗の间の関係をあらわす、オームの法则が现れました。

 地球科学の目でイングランドを日本といつも私は比べます。明治のはじめにイギリスから物理学者がお雇い教师として日本にやって来ました。来るなり起こった横浜の小さな地震にたいへん惊いて、この珍しい现象を解明しなければと、世界で初めての地震学会が日本で生まれました。日本人にとっては小さな地震で、それほど不思议でもなかった现象が、イギリスの学者には経験のない目を见张る出来事でした。
 変动帯の活动で山と盆地と扇状地ができました。プレート运动で北半球に陆が集まり気候が変化し、例えば、この京都盆地には豊かな地下水のある堆积层ができました。そこに育まれた変动帯の文化のこころを世界で共有することも、大切なことだと思っています。
 日本とイングランドの気象の违いはみなさんもよくご存じでしょう。イギリスの人たちは晴や雨や强风や旱(ひでり)というような一时的な天候の挨拶を日常実によくしますが、日本人のような季节の挨拶はしないといわれます。俳句の季语で言えば「春惜しむ」や「行く秋」というような季语の、実感をともなう理解はイギリス人には无理ではないでしょうか。例えば、ワーズワースの「水仙」と、松尾芭蕉や高浜虚子の水仙を咏んだ俳句とを比べるとその违いが见えてきます。

 イギリスの国土は、アプランドとローランドに大别でき、前者は起伏する高原地帯(ムーア)を特徴とし、后者は南部と东部で、穏やかな起伏と平地から成り、チョーク(白亜)と石灰岩を岩盘とする丘陵で、海岸には切り立った崖があります。崖を见れば白い石灰岩の岩盘の上に薄い土の层が乗っているのがわかります。京都盆地には堆积层が数百メートルもあるのとずいぶんちがいます。
 地図で见て、日本と同じような大きさの岛ですが、イギリスの大地は日本列岛とはまったく异なっています。気候もちがうし、大地も安定していて、活断层运动もないので、山あり谷ありの京都などのような地形はできませんでした。ウィリアム?ブレイクの「无垢と経験の歌」がもしイギリス?ロマン派の初期に位置づけられるとすれば、その最初から、羊饲いは一日中、なだらかな丘の地形で羊を追い続けるのであります。

 万叶集は8世纪に生まれました。枕草子(清少纳言)や源氏物语(紫式部)は11世纪の初头に生まれました。とくに1212年には灾害を题材にした最初のエッセイではないかと私は思っていますが、方丈记(鸭长明)が出来ました。これらもこの京都盆地の変动帯の文化の中で生まれました。
 イギリスからはたくさんの文学が翻訳されて、日本にやってきます。これはもちろんこの学会のみな様の努力によっているものですが、日本の文学を一方ではせひイギリスに伝えるという仕事も进めていただきたいと思います。イギリスにはない変动帯に生まれた文化をもとに、四季折々の风物の変化を表现しつつ、その中に人を描いていく日本の文学を、ぜひイギリスへ伝えてほしいと私は思います。

 京都盆地は、変动帯の中でもとりわけ激しく动く活断层性の盆地です。その盆地に生まれた京都大学は、またその変动帯の文化を守り伝えていく役目を持っていると思っています。みなさんが今日の会场に使っていただいている京都大学百周年时计台记念馆の地下には大きなゴムの免震装置が80基も入っています。それは花折断层がこのキャンパスの东端にあって大地震が起こる可能性があり、あるいは京都盆地には他のたくさんの活断层があって地震の多い场所だからで、强震动からこの记念馆を守るために必要なのです。活断层运动が盆地を作り、そこに都が出来たのです。この地域では、大地震は必然的に大都市に起こります。そのような场所での学会を机会に、安定なイングランドの大地の文化と変动帯の京都の文化との比较を念头に置いていただいて、第30回の学会と秋の京都を楽しんでいただければと愿っております。

 みな様方のますますのご活跃とご発展を祈って、イギリス?ロマン派学会30周年への私のお祝いとし、全国大会への学会开催地からのご挨拶といたします。

 ありがとうございました。