尾池 和夫
京都大学に入学された、2987名のみなさん、入学おめでとうございます。ご列席の元総长、名誉教授、副学长、各研究科长、学部长、教职员とともに、心からお祝い申し上げます。入学するまでに、みなさんはすでにさまざまな道を歩んできたでしょう。今日この式场におられるみなさんの一人一人が、静かにそれぞれの道を心の中でたどっておられることでしょう。また、ご家族の方々も、学习の支援を通して、それぞれの思いをいだいておられることと存じます。长い间の努力が报われた実感を持って、ここに列席しておられることと思います。
みなさんが入学したこの大学の「京都大学」という名がはじめて使われた记録は、1891(明治24)年8月に作られた「京都大学条例」であろうと言われます。そして1949年5月31日に新制の京都大学が设置され、また今年4月1日に国立大学法人京都大学が设置されましたが、その法人は直ちに第3番目の「京都大学」を设置しましたので、この京都大学という名前は変わらないのです。
みなさんは、今日、京都大学の入学式に主役として登场されました。みなさんは、京都大学を受験するにあたって、おそらく京都大学の基本理念を読まれたことと思います。その基本理念に沿って、私は、今日入学式に临まれたみなさんに、3つのことを话したいと思います。
まず、第1は、学问の自由ということです。京都大学の基本理念の前文には、「创立以来筑いてきた自由の学风を継承し、発展させつつ、多元的な课题の解决に挑戦し、地球社会の调和ある共存に贡献するため、自由と调和を基础に、ここに基本理念を定める」とあります。
1872年に「学问のすゝめ」を福沢諭吉が书いて、庆応义塾出版局から刊行されたとき、たちまち版を重ねて20万部を突破して、いわゆる海贼版が出回るほどの人気であったといわれます。学问や知识の习得の意义、西洋の学问に迎合せず批判的に本质をまなぶことの意义が述べられました。
学问の自由とは、国民がそれぞれの领域で自由に研究し、知识を学问以外の政治的、宗教的権力や権威による制约をうけることなく表现する権利をいいます。日本国宪法23条では、「学问の自由は、これを保障する」とされ、さらに教育基本法2条によって教育の基本方针とされているものです。
学问の自由の考え方がしっかりできたのは、19世纪のフランクフルト宪法「学问およびその教授は自由である」だと言われますが、20世纪の西洋でも、学问の自由が侵害される状况がありました。アメリカ合众国でも、20世纪前半に、学问の自由は危机に濒したことがあります。公立学校で进化论を教えてはならないという州法で教师が有罪とされた事件がありました。さらに第2次世界大戦后にも、教育や研究に従事する人が誓约をもとめられる状况がありました。
日本では、帝国大学令に、大学は国家の必要に応じる学问の研究?教育をする机関だと规定されていました。1913年、京都帝国大学で、総长が学内改革を主张した7人の教授を辞职させ、これに反対した教授会が、学部の教授人事に関する自治を确认させた、沢柳事件がありました。京都大学の基本理念、「京都大学は、学问の自由な発展に资するため、教育研究组织の自治を尊重するとともに、全学的な调和をめざす」とありますが、これは、大学の100年の歴史の中で、多くの贵重な议论の积み重ねから确立してきた尊い内容なのです。
第2は、人権を守るということです。人権は、个人が无条件にもっている社会生活の上での権利で、宪法や法で守られているものです。
基本理念には、「京都大学は、环境に配虑し、人権を尊重した运営を行うとともに、社会的な説明责任に応える」とあります。
人権は、人に生まれながらにそなわる固有のものであり、他の者によって侵されてはならない不可侵のものであります。
みなさんの手元には、「自由で平等な社会をつくるために-人権関係法令等资料集-」が配布されています。それには、同和问题をはじめ、障害者问题、女性问题、人権?民族问题などの人権问题に関する理解を深めるため、ぜひ読んでほしい资料が収められています。また、附属図书馆などにも、同和?人権问题の文献や资料を备えてあります。ぜひこれらを积极的に利用していただくようお愿いします。
国际连合で1948年に採択された「世界人権宣言」、66年に採択された国际人権规约、すなわち「経済的、社会的及び文化的権利に関する国际规约」(通称、础规约)と「市民的及び政治的権利に関する国际规约」(叠规约)、および「市民的及び政治的権利に関する国际规约の选択议定书」が人権に関して国际的に定められた代表的な规约です。この国际人権规约を、日本も1979年に批准しています。
これらのほか、日本が批准している、难民条约、人种差别撤廃条约、女性差别撤廃条约、子どもの権利条约など、たくさんの条约が缔结されています。
これから、大学に学び、世界に向かって活跃を始めるみなさんは、ぜひこれらの人権に関する条约に目を通して、その意味を自ら考えておいていただきたいと思います。そして、一人ひとりの人権を尊重して行动できるよう、理解を深めていってほしいと思います。
第3は、地球と人の共存を生き方の基本とするということです。このことは京都大学の基本理念の前文にある、「多元的な课题の解决に挑戦し、地球社会の调和ある共存に贡献する」ということに関わります。
みなさんはこれから、共通教育科目を选択しますが、ここで専攻外の分野を幅広く学ぶことが大切です。地球の环境に関することは、全学の学生のみなさんにも、一度は触れてほしい分野であります。京都大学には、フィールド科学教育研究センターが、2003年4月に创立されて、新しく活动を开始しました。また、霊长类研究所や地球环境学堂?学舎があります。総合博物馆にも、附属図书馆にも、また、2004年4月に衣替えした东南アジア研究所や生存圏研究所にも、地球环境を考える分野があります。それらのどこかで、地球と人の共存する未来を考えてほしいと思います。京都大学でのこれらの研究から京都大学が「人と地球のインターフェイス」と言えるように研究を进めたいと思っています。
また、京都大学では、22の21世纪颁翱贰プログラムが现在実施されており、その他にもさまざまの重要な研究プロジェクトが、学部を横断して実施されています。その中にも、地球のことを考え、地球と人の共存を考える多くの课题があります。また、课外活动にも、その分野の活动があります。
地球環境に関して、専門分野に進んでいくプロセスを考えてみましょう。例えば生態学の研究です。京都大学には生態学を研究する多くの研究室があり、フィールドがあります。マレーシアのサワラク州には、かつて生態学研究センターにいた故井上 民二教授たちが計画した熱帯雨林の研究拠点があります。井上先生が考えた、その、サワラク林冠生物学プログラムが実現した研究フィールドの一部が、京都大学総合博物館に展示されています。熱帯林には、地上70メートルにも達する、大変発達した林冠構造がありますが、そこに接近する方法がなかったため、熱帯雨林での動物や植物の相互作用の研究ができていませんでした。井上先生たちは、タワーを建設し、樹上に吊り橋を巡らすなどの工夫をして、花を咲かせるさまざまな植物と、その花粉を運ぶ昆虫などの生態を調べることを可能にしたのです。
また、京都大学人間?環境学研究科に相関環境学専攻があります。そこに生物環境動態論を担当する加藤 真(まこと)教授がいます。加藤先生は1980年に京都大学農学部農林生物学科を卒業した若い教授です。
加藤先生のウェブサイトの绍介には、キーワードとして、生态系、共生、进化の3つの言叶が并べてあります。これらの言叶の一つひとつ、あるいは、それらの组み合わせが持つ意味を考えてみていただきたいと思います。加藤先生の研究テーマの绍介には、「自然には、生物多様性と生态系机能という二つの重要な侧面がありますが、自然の保护、すなわち生物多様性と生态系机能の保全のためには、このような生物の种间関係のネットワークを守るという视点が非常に重要です。森林、草原、湿地、河川、河口、干潟、砂浜、藻场などさまざまな生态系を、そこに见られる生物の种间関係を纽解くことによって理解し、それを守るために役立てたいと考えています」とあります。このような説明を理解するためには、まずこの先生が书いた入门书を読むのがいいと思います。例えば、「日本の渚-失われゆく海辺の自然」という本です。岩波新书にあります。
その次には、加藤先生の論文を探します。例えば、自然科学系の学術誌としてその地位を確立している、Natureという雑誌から、あるいは、専門分野の学術誌、Global Environmental Researchという雑誌から、加藤先生の論文を検索してみましょう。
その上で、加藤先生の全学共通科目の授业をとります。さらに、専门科目を受讲し、大学院修士课程に进み、大学院博士课程に进学して、相関环境学特别研究に従事します。例えば、このような兴味の持ち方で、将来の研究テーマを见つけることもできることでしょう。
このようにして、4年后に京都大学学士、6年后に京都大学修士、9年后に京都大学博士という学位が授与されます。长いようですが、一所悬命学习や研究をしていると、あっという间に経ってしまう9年です。
京都大学には约107年の歴史があります。その歴史の続きに、何枚书いてもらってもいい、真っ白いページが无限に用意されています。京都大学の歴史に新しいページを书き足すのは、今日のこの入学式に参加された皆さんです。そこにどのような歴史を皆さんが书き足されるかを、私たちはいつも注目しています。无限の可能性を持つみなさんの、これからの活跃を楽しみにして期待しつつ、私の式辞の结びとします。
入学おめでとうございます。