尾池 和夫

京都大学大学院に入学した修士课程2,240名、専门职学位课程230名、博士(后期)课程971名のみなさん、入学おめでとうございます。ご列席の名誉教授、副学长、研究科长、学舎长、教职员とともに、心からお喜び申し上げます。
皆さんはこれまで积み重ねてきた学问の道をさらに先へと进むために、あるいは方向転换して未知の领域へ一歩踏み出すために、いずれにしても新たな飞跃を求めて、大学院における研究の道を选択されました。その选択が実り多い人生へつながっていくことを祈って、入学をお祝い申し上げます。
大学院へ入学された今年、どのような年になるか、皆さんは研究や学習の計画を立てて、それぞれに想像しておられることと思います。国連は昨年、2005年を世界物理年として決議しました。日本でもそれを受けて、有馬 朗人さんを委員長とする世界物理年日本委員会が発足しました。それに関連する行事もいろいろと計画されると思います。
100年前の1905年、3月にアインシュタインが「光量子论」を発表し、光は粒子だと论じました。4月には「ブラウン运动」の论文を発表し、この论文でアインシュタインは博士号を得ました。そして6月には「特殊相対性理论」を発表しました。アインシュタインは光电効果の法则の発见でノーベル赏を受けましたが、この研究は后の量子力学の土台となり、半导体材料での电子と光の振る舞いを制御する技术へと、やがてつながって行きました。このような物理学の100年にわたる歴史が、基础研究の息の长い重要性を不动のものとして示しています。
今、日本の科学技术基本计画の第3期に向けての议论が大詰めに来ています。それに向けて多くの人々が意见を述べています。大学院で研究の道を选んだ皆さんも、この问题について考えてみてほしいと思います。
日本学术会议は、今年2月17日に、科学技术基本计画における重要课题に関する提言を出しました。提言はまず、科学技术基本计画の第3期においても、第1期から第2期に达成された割合で科学技术関係経费総额を増额していくことが必要である、として、また大学、研究机関等はその资金の効率的な运用に努めるべきある、としています。
また、基础研究の割合を现状と同等以上に坚持し、科学研究费补助金を増加させることが必要である。研究者は政策に振り回されることなく、基础研究に取り组む自覚を持つべきである。第2期からの倍増を目标として竞争的资金を拡充することが必要である。配分については、小型の研究、若手研究者を重视し、配分の适否を审査する仕组みを导入することが必要である。人文?社会科学领域においても竞争的资金が活用できる措置を検讨すべきである、というような重要な提言が并び、施设整备、人材育成、ポスドク制度や任期付任用制度の再设计、科学研究费补助金等への人件费组み入れ等について考虑しつつ、科学技术者育成?活用に関するグランドデザインを策定する必要がある、と述べています。これらの提言は、特に博士课程に入学して学问の道で职を得ようとする方々にとりわけ重要なことであります。
さて、その博士课程での研究课题ですが、京都大学で行われている研究のどの分野を见ても、私たちは実に面白いと感じます。それぞれの研究室で行われている研究の内容を闻くと、皆さんが目を辉かせながらその面白いと思うところを话してくれます。京都大学にいて、そのような研究の现场にいることの幸せを感じずにはいられません。

最近の私の経験ですが、赤松 明彦先生の楼蘭のミイラと古代インドという話を聞きました。これは時計台記念館で開催されたサロントークでのことです。副題に、インド学の最前線、とありました。研究の課題はいろいろありますが、私が興味を持ったのは、楼蘭のミイラは何語を話したか、という問いの設定でした。岩波文庫にあるヘディンの『さまよえる湖』には楼蘭のミイラの表情のことが出てきます。それには「力強い形の鼻で、自信にあふれた穏やかな微笑を浮かべた面差しは、高貴で品位のある印象を与えた」という風に書いてあります。楼蘭の美女と呼ばれるこの女性は、微笑を浮かべながら、どのような言葉を話したのでしょうか。
赤松先生は、インド古典学研究室の教授で、この研究分野の役割は、「过去のサンスクリット学の研究成果を継承しつつ、古代インドの言语、文学、哲学、宗教、文化史等の研究を行い、その成果を発展させつつ、次世代に引き継ぐことにある」とのことです。
赤松先生の话にある楼兰王国は、タクラマカン砂漠の东端に消えた王国です。砂漠には、そこに展开された歴史、古代都市と交易路、诸民族の文化の変容、砂漠の真ん中で今行われている壮大な科学技术実験、あるいは砂漠の生い立ちにかかわる大规模な活断层运动、砂漠の気候と水の収支、炭酸ガスの吸収を目的とする砂漠緑化のプロジェクトなど、実に多様な研究のネットワークが静かに展开されています。
宇治のキャンパスにある京都大学生存圏研究所は、国立大学法人となって、京都大学が独自に判断して设立した初めての研究所です。木质科学研究所と宙空电波科学研究センターを统合し、再编して発足した研究所です。ここでは、人类の生存に必要な领域と空间を「生存圏」と呼び、その生存圏の诊断をして现状と将来を把握し、さらにその治疗と修復を行うという壮大な目的を持っています。
地球大気、木质遗伝子、木材などの研究から、环境を保全しつつ持続的に木质资源を活用するシステムを构筑したいという目标があります。
宇宙太阳発电所、木质バイオマスの研究で、再生产可能なエネルギー変换利用による持続的な社会の构筑をめざすという目标があります。生物资源の中でも再生产可能かつ生产量の多い木质资源に関する研究を発展させる研究を行います。また、宇宙空间を人类の新たな生活圏に拡大していく研究があります。
バイオマスという言叶は、生物资源という意味なのですが、それでもちょっとわかりにくい、闻きなれない言叶かもしれません。例えば、焚き火に使う薪などの木材资源がバイオマスです。天然ゴムやオリーブオイルなどもバイオマスです。要するに昔はエネルギー资源としては、木や草などのバイオマスしかなかったのですが、石炭、石油、天然ガスの発见から文明が発达し、バイオマスエネルギーは利用されなくなってきました。
地下资源は枯渇しますが、日本は本来、森林という豊かなバイオマス资源を持っています。地球温暖化を防止するためには、炭酸ガスを固定し、砂漠の緑化を进め、海洋技术を进めるなど、幅広い分野での努力が必要であると思います。京都议定书の议论でも、炭酸ガス排出量の削减に重点が置かれる倾向がありますが、その吸収と固定の问题も同时に议论しなければならないでしょう。
一方で、すでに持っている技术を使って、风力発电、太阳光発电など、自然エネルギーによる电力を电力会社が买い入れる制度のできた国もあります。ドイツでは太阳光発电のブームで、日本のシャープや、京都の京セラなどのメーカーがヨーロッパでの贩売に力を入れています。

京都大学には、生存圏研究所の他にも、研究の目的に环境という言叶を含む多くの组织があります。例えば、研究のための地球环境学堂と教育のための地球环境学舎を置き、研究と教育を支援する叁才学林という组织を置いた大学院があります。ここでは、地球环境学の推进のために、厳密に见ると异なる活动であるところの教育と研究を、组织を工夫して効率よく行います。そして「天地人」叁才の调和こそが、地球环境を维持する指针になるとの考えから、支援组织が叁才学林と名付けられました。
また、人间?环境学研究科という大学院や生态学研究センターやフィールド科学教育研究センターという研究施设があります。
京都大学フィールド科学教育研究センターでは、全日空と环境教育で提携して、植林活动やエコツアーを计画しています。センターの持つ研究林などは自主企画で市民にも开放してきましたが、新しい企画では全日空からの支援を得て、海外でのウミガメ保护研究などへの贡献も视野において、京都大学と公司とが组织的に连携した环境保全活动を初めて実现するものです。また、このセンターでは、公司との连携により、耐火性や耐震性に优れた木造建筑を都市に导入することを目标とするなど、森里海连环学の创生に取り组んでいます。
一方で、地球を荒廃させる大きな原因の一つに戦争があります。戦争は地球の荒廃を招くばかりでなく、人の心までも激しく破壊します。大学は、地球环境の问题を単に自然科学の面から考えるのではなく、人类がたどってきた歴史を见つめ、ひとの心の问题を捉えながら、総合的に考えていかなければなりません。これからの世界では、多様に分化してきた学问の诸分野を総合し、融合して次の段阶へと进めていくことが期待されています。総合大学の利点を活かして、大いに分野间の连携、大学と社会との连携、大学と市民との情报の共有による连携など、20世纪までにはなかった手法や形态による学问の进め方も考えていただきたいと思います。
大学院で、みなさんは新しい课题を见つけて学习し、研究成果をあげるということを、当然の目标とします。その中で、広い视野を持ち、社会の现実を见つめながら、国际的に活跃する人材であることを、常に心がけてほしいと思います。京都大学での皆さんの学习と研究が、やがて大きく実り、歴史に残る成果につながることを祈って、あるいは、皆さんが世界を舞台として活跃される人材となることを祈って、私のお祝いの言叶といたします。
入学おめでとうございます。