第26代総長 山極 壽一
本日、京都大学から博士の学位を授与される187名の皆さん、诚におめでとうございます。
学位を授与される皆さんの中には、60名の留学生が含まれています。累计すると、京都大学が授与した博士号は44,265となります。列席の副学长、研究科长、学馆长、学舎长、教育部长、博士课程教育リーディングプログラムコーディネーターをはじめとする教职员一同とともに、皆さんの学位取得を心よりお祝い申し上げます。
京都大学が授与する博士号は合计20种类もあり、博士(文学)のように、それぞれの学问分野が称号のあとに记されています。また、7年前からリーディング大学院プログラムが始まり、これを受讲し修了された皆さんの学位记には、それが付记されています。これだけ多様な学问分野で皆さんが日夜切磋琢磨して能力を磨き、その高みへと上られたことを、私は心から夸りに思い、うれしく思います。本日の学位授与は皆さんのこれまでの努力の到达点であり、これからの人生の出発点でもあります。今日授けられた学位が、これから人生の道を切り开いていく上で大きな助けとなることを期待しています。
私は総长に就任する以前、アフリカの热帯雨林でゴリラの研究をしていました。热帯雨林、通称ジャングルという场所は高温多湿で多种多様な菌类や植物が繁茂し、昆虫から爬虫类、両生类、鸟类、哺乳类に到るまで多くの动物たちが日夜活动しています。そこは陆上生态系で生物多様性がもっとも高い场所であるとともに、様々な生物が多様な関係を繰り広げ、新しい种を次々に生み出している场所です。総长になって大学を眺めたとき、私はこのジャングルと大学がよく似ていると感じました。大学は世界の多様な知が集积する场所であり、またこれまでの歴史を担った知もそこで収集され、様々な视点から分析されています。まさに时空を超える知の拠点であり、それらの知を駆使して创造的な活动を展开する场所でもあります。そして、重要なことは大学もジャングルと同じように、新しい种、すなわち新しい考えが次々に生み出されていく场であるということです。本日、学位を取得された皆さんは、その最先端に立って新しい知を生み出してこられたのです。
博士の学位を得るということは、自分の独创的な考えを认められたということであり、未知の世界の探究者として入口に立ったということを意味します。それは、これから社会に出ていく人にとっても、大学に残って研究を続ける人にとっても同じことです。世界の未解决な课题を発见し、それを自分が置かれた环境の中で、これまでに培った知力と独创力を駆使して解いていくという作业に変わりはないからです。そして皆さんは、自分の一生をかけて取り组む大きな课题にいつか出会うかもしれません。
今年の7月に、东京で京都大学―稲盛财団合同京都赏シンポジウムが开かれました。テーマは「生命の神秘とバランス」で、青山学院大学の福冈伸一さん、京都大学の森和俊さん、大阪大学の长田重一さん、东京工业大学の大隅良典さんに讲演をしていただきました。私が惊いたのは、これらの方々が様々な学问分野の出身でありながら、それぞれ异なるアプローチから生命の本质に迫っていることでした。大隅さんと长田さんは理学、森さんは薬学、福冈さんは农学の出身ですが、皆さん生命科学に目を开かれ、细胞の不思议な活动に取り组むことになります。大隅さんは细胞内でタンパク质を分解するオートファジーという现象を発见し、森さんはタンパク质を合成する小胞体の活动を明らかにしました。长田さんは、细胞自体が死んでいくアポトーシスという现象を解明しました。福冈さんはこうした细胞の絶え间ない分解と合成の作用を、热力学第2法则に従わずにエントロピーを常に捨て続ける「动的平衡」として生命の本质を定义しています。さらに私が感铭を受けたのは、これほど素晴らしい発见を成し遂げた4人の方々が、まだ生命は解明されていないとして、その谜に挑み続けているということでした。真の研究者は、生涯の课题を决してあきらめることなく探求し続ける。その姿に私は强く心を打たれました。遗伝子组み换えやゲノム编集によって生物が大きく改変され、私たちの世界に人工知能やロボットが共存する时代を迎え、生命の本质を探ることはますます重要になっていると思います。
现代は不确定性の高い时代と言われます。情报通信机器が発达したおかげで、私たちはいつでもどこでも膨大な情报にたやすくアクセスできるようになりました。しかし、その反面、どれが信用できる情报なのか、判断しにくくなりました。歴史が新たに编纂しなおされ、解釈しなおされて、歴史上の人物の评価が目まぐるしく変わります。プラネタリーバウンダリーという概念が提唱され、その9つの条件のうちのいくつかが限界値を超えていると言われます。しかし、その数値をめぐって学者の间では意见が分かれます。地球温暖化の原因は大気中の二酸化炭素の割合が上昇したことだという事実が各国で共有される一方で、それとは异なる数値を示して温暖化は地球の気候変动の自然な変化だと述べ、パリ协定から离脱する大统领もいます。日本でも地震や津波に耐えうる基準や、原子力発电所の脆弱性、放射能による健康被害をめぐって、どのデータを用いるかで研究者の意见は分かれています。科学や技术が人间の安全や安心を保障できなくなっているのです。
それは、私たち现代人が高度な情报インフラに囲まれて暮らしているためでもあります。交通手段も建物も、食粮や水の供给に到るまで、复雑なネットワークのなかで电化され情报化されて维持されています。台风や地震などの灾害で通信网や电気が停止すると途端に何もかもが动かなくなることを、今年日本を袭った灾害で私たちは身に染みて知っています。问题は、その情报システムの内容がわからないままに、私たちはその恩恵を享受しているということです。システムが停止しても、一般の人々にはその内容がわからないので、専门家が復旧してくれるまで不便に耐えなければなりません。しかも、原子力発电所の事故のように、システムが破壊されたことでどれほどの灾祸を受けるか、确かなことは不明なままです。昔は安全?安心な环境は人の手で造られ、それが壊されても人の手で修復することができました。しかし、现代は人工的な环境が被害を过大にし、その修復は人知を超え、新たな技术の开発を必要とする时代です。人间が作り出した科学技术が人间をさらなる不安に陥れているのです。今こそ、すべての研究者が分野を超え、総力を挙げて、确かな未来を提示する必要に迫られているのです。
本日学位を授与された论文の报告书に目を通してみると、京都大学らしい普遍的な现象に着目した多様で重厚な基础研究が多いという印象とともに、近年の世界の动向を反映した内容が目に留まります。グローバル化にともなう异文化との交流、多文化共生、人の移动や物の流通、地球规模の気候変动や灾害、社会の急激な変化にともなう法や経済の再考、心の病を含む多くの疾病に対する新しい治疗法などです。
これらの论文は、现代世界で起こっている问题や、これまでに未解决であった问题に鋭い分析のメスを入れ、その解决へ向けて新たな証拠や提言を出すということで共通しています。确かな资料に基づく深い考察から発せられたこれらの提言は、未来へ向けての适切な道标となると思います。タイトルを见ただけでも中身を読んで详しく内容を知りたいという気持ちをかき立てる论文や、私の理解能力を超えたたくさんのすばらしい研究が学位论文として完成されており、私はその多様性に惊きの念を禁じえませんでした。この多様性と创造性、先端性こそが、これからの世界を変える思想やイノベーションに结びついていくと确信しています。
现代の日本は世界の先进国に比べ研究力が落ちていると言われています。とりわけ、分野を超えた対话が低调で、产业界ではイノベーションが起きないことが问题视されています。京都大学はその重苦しい空気を吹き飞ばして、时代の先端を走らねばなりません。それは、皆さんが今まで京都大学で培った能力を世界へ向けて発信することです。自分が発见した新しい事実や考えを世に出すためには、面白いと思う対象や现象を忍耐强く追い続け、それを発见に结び付ける静謐で自由な学问环境と、発见したものを论文として形にするための质の高い対话や讨论が可能なコミュニティが必要です。京都大学はこれまでその环境を维持することに全力を尽くしてきました。
ここに集った皆さんも、京都大学での研究生活を通じて、発见の喜びや论文に仕上げるまでの苦労を十分に味わってこられたことと思います。自分と同じ分野の仲间や他分野の仲间と、活発な対话を通じて、独自の考えや世界を作り上げたことでしょう。それは自由の学问の都、京都大学で学んだ証であり、皆さんの今后の生涯における、かけがえのない财产となるでしょう。また、皆さんの学位论文は、未来の世代へのこの上ない赠り物であり、皆さんの残す足跡は后に続く世代の目标となります。その価値は、皆さんが今后研究者としての夸りとリテラシーを守れるかどうかにかかっていると思います。昨今は科学者の不正が相次ぎ、社会から厳しい批判の目が寄せられています。皆さんが京都大学で培った研究者としての夸りと経験を活かして、どうか光り辉く人生を歩んでください。
本日は、まことにおめでとうございます。