第26代総長 山極 壽一
本日、京都大学から修士の学位を授与される2,207名の皆さん、修士(専门职)の学位を授与される151名の皆さん、法务博士(専门职)の学位を授与される129名の皆さん、博士の学位を授与される555名の皆さん、诚におめでとうございます。
学位を授与される皆さんの中には、382名の留学生が含まれています。累计すると、京都大学が授与した修士号は78,812、修士号(専门职)は1,690、法务博士号(専门职)は2,121、博士号は44,078となります。列席の副学长、研究科长、学馆长、学舎长、教育部长、研究所长、リーディングプログラムコーディネーターをはじめとする教职员一同とともに、皆さんの学位取得を心よりお祝い申し上げます。
京都大学が授与する修士号や博士号には、博士(文学)のように、それぞれの学问分野が付记されており、合计22种类もあります。また、6年前からリーディング大学院プログラムが始まり、これを受讲し修了された皆さんの学位记には、それが付记されています。これだけ多様な学问分野で皆さんが日夜切磋琢磨して能力を磨き、その高みへと上られたことを、私は心から夸りに思い、うれしく思います。本日の学位授与は皆さんのこれまでの努力の到达点であり、これからの人生の出発点でもあります。今日授けられた学位が、これから人生の道を切り开いていく上で大きな助けとなることを期待しています。
世界は今、情报社会を超えた超スマート社会へ変貌を遂げようとしています。これから人工知能(础滨)を用いた情报通信技术は、あらゆる情报をデータにして物や人のネットワークを密にしていくことでしょう。自动运転を可能にするドライバーモニタリングシステムやスマートシティセンシング、カメラと础滨を用いた商品识别技术、多言语自动翻訳技术、灾害情报分析技术など、新しい技术が次々に生み出されています。膨大なデータから础滨が病因を见つけ出し、适切な治疗法を考案して适用し、医疗ロボットが安全な手术を行うようになるかもしれません。それは安全な环境を作ることには大いに役立つはずです。しかし、现代は安全イコール安心ではありません。安心は信頼できる人の轮がもたらすものだからです。いくら安全な场所にいても、仲间に里切られればたちまち危机に见舞われます。私たちは今豊かな情报に恵まれながら、个人が孤独で危険に向き合う不安な社会にいるのです。仲间と分かち合う幸せな时间は础滨には作れません。それは身体に根差したものであり、効率化とは真逆なものだと私は思います。それを贤く组み込むような超スマート社会を构想する必要があります。それには文理の境界を越えた深い教养と时空を自在に往还する幅広い知识が不可欠になります。今ある职业のうちの约半分は10年后には础滨によって代替されるという予想もあります。本日、学位を授与されるみなさんは京都大学で培った高い能力を駆使して、ぜひこの困难な时代に花を咲かせてほしいと思います。
本日学位を授与された论文の报告书に目を通してみると、京都大学らしい普遍的な现象に着目した、多様で重厚な基础研究が多いという印象とともに、近年の世界の动向を反映した内容が目に留まります。グローバル化にともなう异文化との交流、多文化共生、人の移动や物の流通、地球规模の気候変动や灾害、社会の急激な変化にともなう法や経済の再考、心の病を含む多くの疾病に対する新しい治疗法などです。これらの论文は、现代世界で起こっている问题や、これまでに未解决であった问题に鋭い分析のメスを入れ、その解决へ向けて新たな証拠や提言を出すということで共通しています。确かな资料に基づく深い考察から発せられたこれらの提言は、未来へ向けての适切な道标となると思います。タイトルを见ただけでも、中身を読んで详しく内容を知りたいという気持ちをかき立てる论文や、私の理解能力を超えたたくさんのすばらしい研究が学位论文として完成されており、私はその多様性に惊きの念を禁じえませんでした。この多様性と创造性、先端性こそが、これからの世界を変える思想やイノベーションに结びついていくと确信しています。
さて、皆さんは数年间の研究生活を通じて、どのような精神を磨いたでしょうか。そこには京都大学でしか得られない大切なものがあるはずです。今年は日本で初めてノーベル化学赏を受赏された福井谦一先生の生诞100周年に当たります。福井先生は京都帝国大学工学部を卒业后、1951年に京都帝国大学工学部燃料化学科(后の石油化学科)の教授を务められ、「フロンティア轨道理论」を発表して世界の化学界に多大な影响を与えました。京都大学からは物理学赏の汤川秀树先生、朝永振一郎先生に続いて3人目のノーベル赏受赏者となりました。石油化学教室の赤炼瓦の建物は、旧第叁高等学校时代の建物を転用したもので、今でも吉田キャンパス内に保存されています。
実は、福井先生がノーベル赏を受赏した背景には、京都大学工学部の基础研究重视の伝统があったと言われています。工学部は実学重视の教育研究を旨とし、东京大学にも京都大学にも帝国大学として出発した当初から开设されており、日本が実学を重视した大学を构想した証とされています。しかし、福井先生の生い立ちをたどってみると、そういった工学の一般的な印象とはまるで异なる学问の世界が浮かび上がってきます。
奈良県に生まれた福井先生は、小学生时代は国语と歴史が好きで、夏目漱石全集を爱読し、将来は歴史学者になりたいと思っていました。一方、野山の自然と亲しみ、中学では生物の同好会に入って、植物や昆虫採集に我を忘れたそうです。この顷、自然を「文献」としてではなく、生の体験として味わったことが、后年化学の新しい理论を考え出す上で重要な「科学的直観」を养うことに役立ったと述べています。高校では课外活动に剣道をやり、数学が好きで、むしろ化学は苦手でした。それが、父亲の绍介で、当时京都帝国大学の工业化学科の喜多源逸教授に出会ったことで、大きく生涯の道を変えることになったのです。
それは、喜多先生の「数学が好きなら化学をやるべきだ」という言叶でした。当时、化学という学问は実験してみなければわからない経験的な学问と思われていて、旧制高校では数学の嫌いな人が大学で化学を学ぶという常识まであったそうです。その正反対のことを言われ、福井青年は化学の将来を见通すかのような鋭い眼识を感じ取り、鼓舞されて喜多门下に入って化学をやることを决心したのでした。その福井青年に喜多先生が繰り返し言ったのは「応用をやるには、基础をやれ」という言叶でした。当时、工学部工业化学科の学生は理学部化学科の科目も受讲することになっていて、福井青年はさまざまな化学の基础科目を受讲した后、基础を化学そのものではなく物理学と考え、とくに量子力学に勉强の的を绞りました。まだ新しい分野だった量子力学をドイツ语の原书で読み、将来化学を数学化してみたいと考えたそうです。喜多先生の高弟の一人儿玉信次郎先生も戦后、物资や设备のない时代に、基础科学の勉强をしておく必要性を説き、福井先生たちとともに教官?学生の垣根を超え、理论物理学の先端分野まで渡り歩いて自由阔达に议论したということです。そういった深い学际的な议论がやがてフロンティア轨道理论に结晶したのです。
学问をするには、その时代への感性を持つことが重要です。しかし、どんな学问を収めるにも幅広い教养と基础が必要だということを、福井先生がたどった足跡から知ることができます。未知の领域や新しい课题を発见する力は、小さいころに自然に游んだ経験や、异分野で培った见识が育ててくれることがあるのです。しかし、今や世界中の科学に関わる姿势がはるかに画一的になり、とくに技术と结びついて、社会にすぐに役立つイノベーションが求められる风潮にあります。自分の学问分野だけでなく、他の分野の知识や芸术を幅広く取り入れて、それぞれの研究者が独自の感性や科学的直観を持つことが重要だと思います。
ここに集った皆さんも、京都大学での研究生活を通じて、他の分野に広く目を向け、活発な対話を通じて、独自の世界を作り上げたことでしょう。それは京都大学で学んだ証であり、皆さんの今後の生涯における、かけがえのない財産となるでしょう。また、皆さんの学位論文は、未来の世代へのこの上ない贈り物であり、皆さんの残す足跡は後に続く世代の目標となります。その価値は、皆さんが京都大学の卒业生としての誇りとリテラシーを守れるかどうかにかかっていると思います。昨今は科学者の不正が相次ぎ、社会から厳しい批判の目が寄せられています。皆さんが京都大学で培った研究者としての誇りと経験を活かして、どうか光り輝く人生を歩んでください。
本日は、まことにおめでとうございます。