平成15年1月23日 博士学位授与式式辞 

 本日京都大学博士の称号を得られた课程博士61名、论文博士79名の皆さん、まことにおめでとうございます。ご列席の副学长、各研究科长とともにお庆び申し上げます。

 さて最近は产学协力、あるいは产官学协力ということが盛んに言われております。大学の社会における存在意义としては、社会の発展のための人材の育成、学术文化の継承、さらに研究を行うことによって人类の知识を増大?発展させるという、大きく分けて叁つの使命を持っていると考えられてきましたが、最近はさらに大学において作り出し、蓄积してきた知识を社会に适切な形で还元することも重要な任务であるということになってきております。

 大学の持つ知识の社会への还元は、従来大学の研究者が个々に、一般社会に新しい物の见方、考え方、あるいは新しい知见を伝えたり、公司に専门的知识を教え、特许を移転あるいは取得させたり、また公司の研究者と共同研究をしたりするなど、种々の形で行われてきておりました。しかし、こういった个别的、非组织的な形では、社会に対する公平性、透明性が欠けることがありますし、そういったことに大きな関心を持つ研究者のみが行っているのでは不十分であり、大学の创造した知识で社会に直接役に立つものはもっと多いということなどから、产学协力を制度的なものにし、もっと积极的に推进して行くべきだという考え方が出てきました。

 1980年代の日本公司は世界を席巻する势いで、大学からは人材さえ供给してくれれば公司に必要な研究开発は全て自社において行うといった考え方でありました。ところがバブルがはじけ、研究开発にほとんど人材と资金を出せなくなって、大学は社会に役立つ研究をし、产业界に积极的に协力すべきだという声を产业界がいっせいにあげ始めたのであります。アメリカの大学はずっと以前から公司からの资金で研究を行い、その成果を还元するということをやってきており、またベンチャー的な事业も比较的容易に立ち上げることができて、アメリカの产业界に活力を与え、アメリカの景気を支えてきましたが、これを日本の产业界が见て、日本でもそういった事を実现すべきだという愿望もあったからでしょう。こういった声の高まりに対応して、国は国立大学の教官の兼业兼职を大幅に认め、また产学协力ができやすい种々の制度的工夫をしてきております。

 京都大学においても数年前にベンチャー?ビジネス?ラボラトリーを作り、大学院学生に自由な発想に基づく研究をさせるとともに、知的财产権に関する知识、特に特许の取り方を教えたり、起业、すなわち新しく公司を作るために必要となる知识を与えるなどの努力をしてきました。また最近は国际融合创造センターを作り、产业につないでゆける种々の研究を行うとともに、产业界への大学の窓口として、公司からの问合わせ、协力要请、共同研究提案等に対して、学内で関连する研究をしている教官を绍介したり、教官をグループ化して対応させるといった仲介の机能を果していますし、大学に设置が奨励されている知识财产本部を作るための準备的検讨もしています。

 このように、京都大学も社会の要请にまじめに対応しておりますが、これで京都大学が社会に役立つ応用研究の方に方向転换したというとすれば、それは大きな误りであります。京都大学はあくまでも学问の発展、新しい知识の创造、そのための基础研究を第一に考えるというこれまでの姿势は全く変わっておりません。社会や产业界との协力によって、そこに存在する真に困难な问题を摘出し、これに创造的な立场から解决を与えるための基础研究を推进すること、こういった努力を通じて新しい学问分野を开拓してゆくということを心がけているのであります。空理空论でなく、现実世界に立脚した学问を构筑しようという态度であります。こういった努力が、5年、10年、あるいはもっと长い期间を通じて见た时に本当に良く社会に贡献できる道であると考えます。

 产学协力の他に、最近は产官学协力ということが盛んに言われています。これは学问研究に官が係わらねば有効な研究の発展が期待できないような课题と状况が出て来ているということであります。今日、大学における研究には各国とも国策として相当な额の研究费を投入するようになってきていますが、そのためには国としてどのような考え方と方向で学术の振兴、科学技术の発展をさせねばならないかということが大切となります。そこに官が係わってくる理由があります。たとえば地球温暖化问题を考えてみますと、これは地球全体についての観测网を国际的协力のもとに设置しなければなりませんし、颁翱2の排出削减については各国が国として相互协力をしなければなりませんから、政府间交渉が重要な役目をすることになります。原子力研究、あるいは今世界のどこに设置するかが问题となっている国际热核融合実験炉など、多くの大型研究については国が予算的にも政策的にも深く係わって来ざるをえないことになります。情报化社会の构筑、あるいは别-闯补辫补苍と呼ばれている电子政府の构筑といったことのための种々の研究も、国の関与、あるいは国の积极的な协力?推进がなければ社会に定着してゆかないわけであります。

 こういった事例をよく考えてみますと、产官学协力だけではなお不十分であることが分かってきます。どのような研究をどのように进めるかには、その成果を利用する社会の人々が係わって来ざるをえないということであります。たとえば学校教育に情报技术を导入することはこれからの大きな课题であり、そのために多くの基础的?応用的研究をしなければならないわけですが、これを成功させるために行う情报技术の研究开発は学校教育の现场の协力なくしては成功しません。また先端的な基础医学の研究成果を临床に応用するトランスレーショナル?リサーチなどでは、大学の研究者と公司の研究者とが一体となって研究しなければならないほかに、患者が积极的に协力し、情报提供も行わねば成功しないといわれています。また特に再生医疗などでは生命伦理など社会の考え方を抜きにしては进められないところに来ています。

 このように、これからは产官学协力だけでは不十分であり、产官学民の协力ということを明确に打ち出すことが必要であると考えられます。すなわち、これからの研究の多くは研究室の中に闭じこもってはできず、必要に応じて产も官も社会をも取り込み、それらと协力しながら进めてゆく必要が出てくるわけであります。歴史的に考えて研究活动のあり方がそのように変わらざるをえない时代になってきているのではないでしょうか。またそのようにしなければ真に困难な问题が浮かび上がって来ず、学问の新しい発展が期待できないともいえるでしょう。したがってこれからの研究者は自分の専门分野のみならず、広く関连分野の知识を持ち、产や官、民ともうまく协力してゆける资质が要求されてゆくことになるでしょう。

 本日京都大学博士の称号を得られた皆さんは、これからも研究生活を続けてゆく人、あるいは社会に出て自分の力を発挥しようとしている人など、いろいろな方がおられると存じますが、皆さんの活动は全て、大なり小なり、产官学民の全てに係わるものとなるでしょうから、こういったことをよく考え、相互协力への努力をし、社会の発展のために贡献していただきたいと存じます。皆さんの将来に期待し、お祝いの言叶といたします。