平成15年3月24日
本日ここに博士の学位を得られた课程博士487名、论文博士140名の皆さん、まことにおめでとうございます。ご列席の副学长、各研究科长とともに皆さんの学位取得に対して心からお庆び致します。
さて今日の日本は皆さんもご承知の通り、経済は不振であり、产业もなかなか明るさを持つことができず、社会全体が低迷しており、いつになったら活力が取り戻せるかは谁にも分からないという状况にあります。そこで政府は构造改革を唱えると共に、もう一方では科学技术によって日本の产业界に革新をもたらす必要があるとして、科学技术基本计画を実行しつつあります。科学技术の进歩が今日の文明と豊かな社会をもたらしたということは言うまでもありませんが、一方では、20世纪を振り返ってみますと、科学技术が人间社会と地球环境を胁かす种々の负の面を持っていたことも明らかとなるのであります。
科学技术の持つこの负の侧面を认识すべきことは当然ですが、人口の爆発的な増大、水や食粮?资源?エネルギーの不足、地球の温暖化といった深刻な问题に対処し、発展途上国を含み世界全体の持続的な発展を実现するためには、科学技术の力に頼らざるをえないことは言うまでもありません。しかし南北における富の格差や情报格差を克伏し、人権を守り、生命伦理を尊重して、人类の明るい未来を切り开いてゆくためには、科学技术だけでなく人文社会科学がもっと重要视され、また人间の持つべき伦理、道徳への认识とその実践が行われてゆく必要があるでしょう。
世界の主要国が科学技术に力を入れ、国际竞争力のある产业を兴し、経済力を付けようとして、激しい竞争をしている中で、我が国がどのようにすべきかは大きな问题であります。総合科学技术会议は国家的?社会的课题に対応した研究开発の重点课题として、ライフサイエンス、情报通信、环境、ナノテクノロジー?材料の4分野を指定していますが、これがその他の科学技术分野については力を入れないということになっては意味がありません。いろんな分野で新しい発见やブレークスルーがありうるわけですし、思いも寄らなかったことが产业に结びついてゆくことも十分に考えられるからであります。
日本のような先进国においては、米国やその他の国がある分野に力を入れているから日本もそうしなければ负けるといった近视眼的な発想でなく、科学技术全体を総合的に展望し、日本の社会にとって必要な科学技术に力を入れてゆくといった自信を持つべきでありましょう。たとえば社会と自然环境との调和といった観点や、资源がなく超过密な都市生活を余仪无くされている现状をいかにして打破できるかといった视点も大切であります。つまり进歩発展が比较的容易なところを政策的にのばすというよりは、こういう困难な问题は是非とも解决しなければ未来社会はないといったいわば困难な课题をこそ国として积极的に取り上げて解决してゆくという姿势を持つことがこれから益々大切になってゆくのではないでしょうか。
従来の自然科学は方法论がしっかりしていますから、谁がやっても进歩発展してゆくものであります。よく言われることですが、ニュートンやアインシュタインといった天才が出ることによって自然科学が飞跃的に进歩したことは事実でしょうが、こういった天才がいなかったとしても同じ结果は谁かによって何十年か后に得られていたに违いありません。自然科学はおおむねこのような形で発展してゆきます。
しかし人文科学や文学?芸术といった分野はそうではありません。源氏物语は紫式部がいなかったならばその后出现しなかったでしょうし、モーツアルトの音楽は他のいかなる人にも作れなかった天才の作品であります。人类の豊かな発展を考えるとすれば、科学技术だけでなく、こういったことの価値についても十分よく考えねばなりません。
今日我々が直面している地球环境问题や食粮?エネルギー问题などの21世纪の深刻な课题は、さらにもう一つ全く别の観点から考えねばならない、従来の自然科学の方法论の単纯な适用では解决できない问题であると考えられます。これらの问题はいずれも人间の行动?社会活动等までを含んだ复雑なシステムの活动の结果もたらされてきたものでありますから、これをどのようにとらえ、総合的な立场からどのように解明してゆくかが问题であり、これまでの科学的方法论ではうまく取り扱えない问题であるところに特徴があるといえるでしょう。
つまり、こういった问题に対しては、従来の自然科学の分析的、要素还元主义的な立场、あるいは文化芸术的な価値の観点からだけでは解决ができないわけで、个々人の社会生活における行动様式、価値観などが大きくかかわるものであります。ひょっとすると人々の価値観が物质文明的な时代を通り过ぎて、精神文化や道徳を重んじ、善悪の判断に心を至すべき时代に入ってゆかねば根本的には解决しないのではないでしょうか。また世界全体を直感的に把握する哲学的立场、禅的立场の方に有効な解决の糸口があるのかもしれません。
今日は、ほとんどあらゆる学问が技术?テクニックに堕落してしまっております。学问は善悪などの価値と何ら関係のない世界で构筑されますが、それが広い视野のもとでの善悪の判断をほとんど伴わずに、社会に応用されてしまっています。そしてそれがまた学问をますますテクニックの方向に曲げていくということになっているのであります。こういった中で、京都大学博士の称号を得て社会に出て活跃される皆さんは、自分の専门分野だけでなく、ここに述べました意味においても色々と幅広く勉强し、よく判断をすることが必要であります。そして、しっかりとした自分の価値観を确立し、社会のために贡献していってくださることを念じ、私の挨拶と致します。