本日、京都大学博士の学位を得られました课程博士75名、论文博士65名の皆さん、まことにおめでとうございます。ご列席の各研究科长とともに、皆さんの京都大学博士の取得に対し心からおよろこび致します。
さて皆さんもご存知の通り、京都大学総合博物馆が去る6月1日に开馆され、広く市民に公开されました。このような博物馆が学生研究者だけでなく、社会人から子供たちまで、一般市民に利用され、気軽に贵重な资料を閲覧し、科学技术の楽しさに触れる场ができましたことは、学外学习、生涯学习が盛んになりつつある今日、非常に意义のあるものであります。
この博物馆は文部省学术审议会が1996年1月に出した答申、「ユニバーシティ?ミュージアムの设置について-学术标本の収集、保存?活用の在り方について-」に基づいて、1997年4月に教官9名(教授、助教授、助手各3名)と事务官5名で発足したもので、旧文学部博物馆の建物のほかに、1999年に自然史系の建物部分の予算が认められてようやく全体の开馆にこぎつけたものであります。
この総合博物馆の前身はかなり昔まで遡ることができます、京都帝国大学が创设されたのは1897年(明治30年)でありますが、その9年后の1906年に开设された文学部の前身である文科大学が美术品や考古学资料の収集を始め、その保管の必要から1914年には文科大学に陈列馆が设けられました。これが戦后1955年に文学部博物馆となり、1987年には东大路通りに面して建物が新筑され、一般に公开されることになりました。これが现在の総合博物馆の本馆であります。
一方、自然史资料についても、その整理?保存の必要性が出て来て、1986年から、主として理学部、农学部、当时の教养部が中心となって検讨を始めました。そして1988年には自然史博物馆基本计画を作りましたが、その后文学部博物馆と统合した京都大学総合博物馆构想となり、技术史分野も入れて今日の组织と建物が実现したのであります。
大学博物馆の第一义的な目的?使命は、その大学において行われて来た研究の过程で収集された标本?资料を保管?管理し、活用をはかると同时に、研究成果を展示公开することにあります。したがってその展示のあり方にその大学の性格が色浓く反映されるのは当然のことであります。京都大学総合博物馆の常设展示の主テーマはフィールド?サイエンス、つまり野外研究でありますが、これは京都大学が探検大学といわれるほど野外研究がいろんな学问分野で行われ、大きな成果をあげているからであります。この博物馆展示を见れば、京都大学が初期の顷から今日まで、种々の学问分野でフィールドワークを行い、いかに多くの辉かしい学问成果をあげ、世界をリードして来たかがよく分かります。京都大学総合博物馆は、このように学问的に非常に充実した内容をもっており、全国初の本格的なユニバーシティ?ミュージアムと言ってよいでしょう。
この博物馆には、文化史系、自然史系および技术史系の3つの分野がもうけられており、资料の整理や展示についてもこのような立场から行われております。文化史系には、国宝1件、重要文化财4件を含み、旧石器时代からの出土品などの実物の考古资料だけでも30万点を越す厖大なコレクションをもっておりますし、古文书、古地図などの文献资料も多数もち、日本の考古学を常にリードして来ました。日本の歴史に影响を与えた中国や朝鲜半岛についてもさまざまな时期の资料を菟集し、多くの研究成果をあげております。
自然史系、技术史系にも多くの贵重な资料があります。特に自然史系の动物标本、植物标本、菌类标本は约200万点にものぼるもので、世界的にも有数の标本をもつ博物馆と位置づけられます。この中には栽培小麦の起源を明らかにした木原均博士の収集した小麦関係の标本など、多くの辉かしい研究成果の基础となった标本が含まれております。
最近は世の中のスピードがあがり、博士课程学生の研究においても3年间に论文を何编発表しなければならないとか、一方教官の研究指导においても、博士课程3年を终わったら学位を与えられるようにしなければならないといった雰囲気がますます顕着であります。また教官の研究活动についても、过去5年间に何编の论文を国际的に评価のある雑誌に掲载したかを调べるといった业绩评価が行われようとしており、全てにおいてあわただしい时代となって来ております。
しかし、このようなスピードとは全く违った时间概念を持つ学问分野もいろいろとあるのであります。博物馆の资料の収集と保存の仕事などは长年月をかけねばならない仕事であり、通常の研究とは违うものですが、なくてはならない活动であり、贵重なものであります。现在総合博物馆には100万点をこえる植物标本がありますが、今日も新しい品种を発见するなどのことがあり、毎年数千点から一万点の植物标本をこつこつと作っているのであります。1点毎の资料の収集と保存は実に地味で、すぐには论文につながりませんが、こういった地味な仕事が长年にわたって积み重ねられてこそ学问の进歩があるのであります。これは総合博物馆の地阶収蔵库の250万点の标本を前にすれば谁もがひしひしと感じることで、これこそ百年にわたる研究の歴史をもつ大学でなければ成しえないことであり、夸りとすべきことであります。
标本资料の活用の仕方にもいろいろな场合があります。たとえば、戦前からの琵琶湖の鱼の标本も沢山もっていますが、こんなものを沢山もっていてどうするのだろうかと思うかもしれません。しかし地球环境问题がクローズアップされて来ている今日、琵琶湖の水に含まれる微量有害物质がどのような経年変化で増加して来ているかを调べることは非常に大切なことであり、これは长年にわたって採集されて来た琵琶湖の鱼の体内に含まれる微量物质を调べることによってかなり明らかになってくるわけであります。また、动物?植物?化石标本など、かつては形态の比较のために収集された标本も、含有する顿狈础の分析が可能となるに伴い、分类体系の再构筑のため、またバイオテクノロジーの分野の研究のため、などの研究素材として、新しい存在価値が认识されはじめているのであります。
このように学术标本は、図书馆の図书资料と同じく、将来どのような目的に利用されるか全く予测ができないわけで、そうであるからこそ、価値判断を入れずに全てを网罗的に収集するということが必要となるのであります。今日ややもすると、その研究の目的は何かといったことを性急に求めがちでありますが、大いに反省すべきことと考えます。
京都大学はこれまで百年の间に多くの研究成果をあげるとともに、こういった厖大な知的な财产を蓄积して来ました。このような学问研究の环境は一朝一夕で作れるものではなく、我々は先人の努力に感谢するとともに、またこれからの人达に対してよりよい知的资产、学问的环境を残してゆかねばなりません。今日博士の学位を得られた皆さんの业绩も、これからの京都大学の学问的环境の一部を形成することになるわけであります。どうか京都大学博士であることに夸りを持ち、これからも学问世界や社会に対して贡献して行って下さるようお愿いし、お祝いの词といたします。