京都大学の新しい方向を求めて
総长 长尾 真
新年明けましておめでとうございます。今年も京都大学がますます発展する年になりますよう、また京都大学の皆様にとって良い年でありますようお祈り申し上げます。
新キャンパス
昨年の秋には、长年の悬案でありました新しいキャンパスの场所を决定することができ、具体的に动き出すことになりました。新キャンパスについては种々の観点から长年慎重に検讨されて来ました。奈良県近くにある木津地区が有力候补としてあがっていましたが、距离が远く交通に问题があり、学生の教育等のことを考えると问题があること、また広大な土地の取得费とそこでの施设整备费は膨大なものとなり、今日の国の财政状况からキャンパスの完成に何年かかるか判からないこと等の问题がありました。また京都市内、京都府内、滋贺県など、比较的近隣での适当な用地としては、限られた候补地しかないという现実もありました。さらに、移転となればどの部局がどのような形で移るか、それが教育?研究上无理のないもので、部局构成员の同意が得られるかという问题もありました。
一方では、これからの21世纪社会を考えた时、无限の拡大という方向がありうるとも考えにくく、むしろ质の高さを追求する时代になって行くのではないか、その场合には京都という地のもつ文化伝统の基盘の上に密度の高い活动をする事をねらった方がよいのではないかという思いもありました。つまり、日本を代表する大学として今后とも高度の先端的な研究を行い、学问において世界をリードするとともに、社会において指导的役割りを果たす见识のある优れた人材を多数辈出するエクセレント?ユニバーシティをめざさねばなりませんが、そのためには诸学の交差する密度の高い空间と、それにふさわしいキャンパス环境が必要であるという认识がありました。
このような多くの要因?条件をよく検讨した结果、昨年9月末の评议会で次のような决定がなされました。
京都大学の新キャンパス构想<短期计画>について
- 新キャンパスを桂?御陵坂地区(以下「桂キャンパス」という。)に求めることとする。
- 桂キャンパスには、工学研究科及び情报学研究科が移転する。
- 学部学生に対する教育は、吉田キャンパスで行うことを基本とする。
- 工学研究科?情报学研究科の転出に伴い、吉田キャンパスについては、基本的には施设长期计画に沿いつつ、既存建物の再利用を図りながら暂定的な再配置を行う。
こうして、京都大学は、これまでの吉田地区と宇治地区に加えて、桂地区に新しいキャンパスを设定することで、トライアングル构造の教育?研究拠点を形成することになります。いわば京都という、文化と伝统があり、しかも非常に先进的な日本の代表的都市を坩堝(るつぼ)として、これを叁本の柱で支える构造ということができるでしょう。
吉田地区には全学部と文系?理系の研究科をおき、学问の伝承を行いながら基础研究を推进します。宇治地区には自然科学系の研究所が结集し先端的研究を展开します。そして桂地区は理学と工学とが融合し、社会に开かれた领域を开拓することをめざす関西のテクノサイエンスヒルとして発展していくことを目标とします。
この决定を受けて、桂キャンパスを工学?情报学分野の知の戦略拠点に作りあげるという考え方で文部省に働きかけました结果、昨年暮れの第二次补正予算に、桂キャンパスの一部の土地取得と工学研究科化学系?电気系その他の建物计画を入れていただきました。これは大変感谢すべきことであります。
これによって、ともかくも京都大学の新キャンパス计画が第一歩を踏み出したわけであり、これを契机として、京都大学は21世纪に向かって力强く希望を持って进むべきだと存じます。
组织の改编
京都大学はこれまでにも、21世纪社会が必要とする学问研究を推进すべく组织を改革?再编して来ました。人间?环境学研究科、エネルギー科学研究科、アジア?アフリカ地域研究研究科、情报学研究科、生命科学研究科などの独立研究科の创设はこの考え方によるものであります。また研究所?センター関係では、エネルギー理工学研究所、再生医科学研究所、総合情报メディアセンターなどを作り、またこれまでの研究成果と遗产の保存展示のための総合博物馆も设立されました。
来年度につきましては、现在、経済学研究科においてリフレッシュ教育の推进を主たる目的としたファイナンス工学讲座を设けようとしておりますし、経済研究所においても金融工学研究センターを新设すべく努力をするなど、これからの电子情报社会における多様な経営活动に関する教育研究を强力に推进しようとしております。
医学研究科においては、基礎医学を一層充実させるために、医学部だけでなく他の自然系学部の卒业生も進学することのできる医科学専攻を新たに設ける計画をたてています。さらに、これからの医学は治療医学とともに、よく健康を保ってゆくにはどうすればよいかという予防医学に力を入れるべきであるという観点から、実践的な教育研究を行う社会健康医学系専攻を新設すべく努力をしております。
そのほかにも几つかの具体的な改编の努力がなされておりますが、たとえば、これから益々深刻になり人类の将来を左右しかねない环境问题についても、京都大学のもつ総合的な力を発挥して研究し解决するにはどうすればよいかという検讨が进んでおります。その他にも21世纪社会が必要とする学问研究をめざして取组むべき课题は、少なくないと考えます。
社会との関係
产学协力ということがよく言われる时代となって来ました。大学は究极的には社会のためにあるのだから、产业界によく协力しなければならないという声がある一方で、学问はそういったものでなく、独立したものとして纯粋に进めてゆくことによって、结果的に社会に大きな贡献をすることになるのだという考え方もあります。どちらの立场にも真実が含まれておりますが、我々はどこかその中间のところをめざして进むべきなのでしょう。
ただ、ここで确実に言えることは、あらゆる学问分野において、社会の现実から目をそむけることなく、社会のかかえている课题、难问に直面する勇気を持たねばならないということであります。そういった问题を直视することによって、そこにひそむ真の学问的课题を掘り起こし、また新しい学问分野を开拓することによって、その结果として社会のかかえている课题や难问を解决するという态度を持つことであります。その过程で社会や公司といろいろな形で协力するということは大いにありうることであり、これは公司からの要请に対して単纯に自分のもつ知识を提供し手助けするというのとは本质的に违ったものであります。
少なくとも京都大学における产学协力というのは、そのような意味で、お互いの立场を尊重しながら、产学が対等にギブアンドテイクの関係で健全な発展をすべきものと考えます。そういった立场からは、京都大学はもっと积极的に社会に出て行って、学问的课题を発见し、また社会の実状を直视し、解决の糸口を见いだす努力をすべきでありましょう。こういったことは、多くの场合自分の学问の発展にとって不可欠のことであり、その结果として社会に対して贡献することになるのであると考えます。
存在感のある人材の育成
さて、21世纪社会の日本の课题のひとつは、政治、経済、科学技术で世界をリードしていくということでしょう。そのためには日本の言うことに対して他国が真剣に耳をかたむけるという、存在感のある国になることが先决であります。それは一人一人の日本人がどこに行ってどのような人に出合い话合っても、存在感を相手に感じさせる、そういう人を养成することであろうと思います。このような状况ができなければ、たとえば日本人の学问?研究成果は评価はされても、世界中の多くの人がその学问世界に魅力を感じて引き込まれ、その学问的方法论を自分のものとして研究をするようになるといった状况、つまり学问の本流を生み出して世界をリードしていくことは困难でしょう。これは学问の世界だけでなく、他の种々の分野についても言えることであると思います。
こういった魅力のある人物を育成するような教育はどうしたらできるかを、我々は真剣に考えねばなりません。これは知识の伝达だけでなく、また思考力を锻えるだけでも足りず、その人のもつ価値観、人生観を锻え、しっかりした考え方を身につけさせることによって初めて可能になると考えます。そのためには教师である我々と学生とのより良い人格的接触が必要でありましょう。
そういった点から、一昨年から始まった通称ポケットゼミは特に意义あるものです。教官が自発的に自由なテーマで、学部に関係なく、そのテーマに兴味をもつ学生を最大10人、ゼミに参加させるというものです。学生との亲密な対话を通して学问の面白さ、その深さ、社会における意义などを教育します。今年度は昨年度よりも多い180人余の教官が121コマの科目を担当し、合计八百数十人の学生が受讲しました。来年度はより多くの教官がポケットゼミを提供し、少しでも多くの学生が受讲することを期待しています。
国际感覚と外国语能力
昨年の秋学期から试験的に始めたものに、米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(鲍颁尝础)との间の远隔讲义があります。これは総合情报メディアセンターが技术的に支援しているもので、京都大学の教官が自分の科目を学生に教えるとともに、これをリアルタイムに鲍颁尝础の教室に送り、そこにいる学生にも教えるものであります。また、その逆に、鲍颁尝础の教官が自分の学生に讲义をすると同时に、京都大学の学生にも聴かせるものであります。
両者対等的な协力であり、半年间の讲义は英语で行われていますが、京都侧の松本 紘教授の讲义は非常に工夫されており、鲍颁尝础の学生にも人気があると闻いております。鲍颁尝础からの讲义については、京都大学の学生は内容の理解とともに、英语の聴きとりと英语会话の训练をも目的として参加しているようですが、典型的なアメリカ型の讲义の仕方に引き込まれ、极めて热心であります。毎回の讲义终了后、両国の学生同士の会话もなされ、インターネット経由で両国の学生が共同で课题を解决し、レポートを书くなど、兴味深い実験的な讲义であります。将来はこのような远隔讲义を徐々に増やし、学生诸君が讲义内容だけでなく、英语会话能力と国际感覚を培ってくれることを期待しております。
これからの日本の大学は、教育?研究の両面で世界の大学の中に重要な位置を占めることが必要ですし、また卒业生が21世紀国際社会において十分に活躍できる英語力と基礎学力、さらに強い精神力を身につけることが不可欠であります。したがって、こういった試みをこれからもいろいろと具体化していくとともに、このような種々の試みを正規の授業にも定着させていって、しっかりした考え方をもち、外国人を説得できる英語力を持つ人材を育成することが非常に大切であります。
独立法人化
さて、昨年来、本格的な问题となっている国立大学の独立行政法人化について、我々は真剣に考えなければなりません。既に大学入试センターなど、国立机関の一部が平成13年度に独立行政法人化されることに决まっており、行政改革推进本部はひきつづき、99の国立大学についても独立行政法人化の方向で検讨しております。文部省としては、大学における教育研究の本质的な性格から、独立行政法人通则法は大学にはなじまないものとし、特例措置等の検讨をしております。
ただ产业界を含む社会一般、国会议员等も、ほとんど全てが国立大学の独立行政法人化の方向を支持しているようでありますし、国立大学以外からは、ほとんどどこからも国立大学のままで进むべきだという意见が出て来ていないという现実があり、また国立大学の中でも意见は非常に広く分布しているという状况があります。今日、日本社会は、あらゆる部分で构造的変革を迫られ、公司组织においても世界的な规模で解体と再统合が行われつつあります。また中央省庁の再编なども进められている中で、国立大学だけが従来のままでよいのかという声も闻えております。しかし、通则法の下での大学の独立行政法人化に大きな问题のあることは、国立大学协会の指摘のとおりであり、また上に述べましたように、文部省もこれを重要な検讨事项としているところであります。国立大学がどの方向に进むべきかは非常に重要かつ困难な问题でありますが、日本の高等教育、研究の発展のために建设的な方向で解决して行かねばなりません。
そういった中で、少なくとも、国はその责任として国民の教育と学问の発展ということを放弃することはありえず、学术の発展のために相当额の研究费を今后とも投入していくことは间违いないのでありますから、我々のなすべきことは、いかなる状况になっても教育と研究、学问の健全な発展のために最大限の努力をすることでありましょう。そのための条件が确保されるよう努力を続けなければならないことは言うまでもありません。
竞争的环境
これからの大学のおかれる環境は、平成10年10月に大学審議会が出した報告書『21世紀の大学像と今後の改革方策について―竞争的环境の中で個性が輝く大学―』にも明確に書かれていますように、教育?研究?大学運営など、あらゆる面において大学間の競争が本格化することは間違いありません。いや競争は、既に始まっているのであります。
今年の4月には大学评価のための機関として、大学评価?学位授与機構が発足し、本格的な大学评価が始められます。京都大学はそのようなことには動じず、超然としているべきだという考え方が、もしあるとしたら、この際はっきりと捨て去るべきではないでしょうか。世界のいずれの大学も競争を意識しています。日本国内で優れた位置を占めていても、世界の大学の中ではどうでしょうか。世界にははるかに優れた大学が存在します。たとえば米国には非常に優れた大学が幾つもありますし、中国は国家目標として数校の大学をあと20年くらいで世界有数の大学にする決意をしております。そういった中で、京都大学は従来にも増して一層の努力をする必要があります。
21世纪を迎えようとする今、我々ははっきりとした决意をもって、竞争に打ち胜ち、世界に大きな存在感を観取させる特色のある大学になるべく努力することが必要であります。それは决して难しいことではありません。京都大学は人材は豊富であり、力は十分にあります。一人一人が心を世界に対して率直に开き、世界に积极的に出ていくことによって、かならず実现できるものと确信いたします。
今年は、20世纪最后の年であります。皆さんも来るべき世纪に向かって、京都大学の进むべき方向についてよく考えていただきたく存じます。その材料として、私の素直な気持を皆さんに诉えて、新年にあたっての私の挨拶といたします。