※ 本文および「详しい研究内容について」(PDF)を一部修正しました。(2023年8月17日)
1956年に米国の理论物理学者デイヴィッド?パインズは、固体中の电子の奇妙な状态を予言しました。通常、电子は质量と电荷を持ちますが、パインズは电子が结合して、质量がなく、电気的に中性で、光と相互作用しない复合粒子を形成できると考えました。彼はこの新しい粒子を「特异な电子の运动をになう粒子」という言叶の头文字をとって「顿贰惭-辞苍」(悪魔)と名付けました。しかしながら、これまでこの粒子が実际に観测されたことはありませんでした。
この度、前野悦輝 高等研究院連携拠点教授(豊田理化学研究所フェロー)、ピーター?アバモンテ イリノイ大学アーバナ?シャンペーン校教授らの研究グループは、「パインズの悪魔」が予言されてから67年後、ついにそれを発見しました。物質の電子モードを直接励起する特別な手法を用いて、ストロンチウム?ルテ二ウム酸化物に「悪魔」の振る舞いを観測しました。
物性物理学の最も重要な発见のひとつは、固体では电子が个性を失うということです。电気的相互作用によって电子は结合し、集合単位を形成します。十分なエネルギーがあれば、电子は「プラズモン」としてよく知られた、电気的相互作用によって决まる电荷と质量を持つ新しい复合粒子を形成することさえできます。しかし、通常は质量が非常に大きいため、室温で自然な热励起としてプラズモンを作ることはできません。
パインズは例外を予言しました。多くの金属がそうであるように、固体中の电子が复数のエネルギーバンドを持つ场合、それぞれのプラズモンが位相のずれたパターンで结合し、质量がなく中性である新しいプラズモン、すなわち「デーモン(悪魔)」を形成することができると彼は主张しました。「悪魔」は质量がないため、どのようなエネルギーでも形成することができ、あらゆる温度での热励起で存在する可能性があります。このことから、「悪魔」は复数の电子バンドを持つマルチバンド金属の挙动に重要な影响を与えるのではないかと推测されています。「デーモン」は电気的に中性なので、标準的な物质の実験では痕跡を残さないかもしれません。
本研究グループは、本学で育成されたストロンチウム?ルテニウム酸化物厂谤2RuO4の結晶を用いた、運動量分解電子エネルギー損失分光(M-EELS)で、新たな励起モードを観測しました。よく知られたプラズモンと異なり長波長でギャップレスであり、電子密度の振動ではなくバンド間の電子占拠数の振動である「パインズの悪魔」として解釈できます。1956年にパインズがDistinct Electron Motion(DEM)を担う量子「DEM-on」(デーモン、悪魔)と名付けたこのモードの初めての観測報告になります。
本研究成果は、2023年8月10日に、国际学术誌「狈补迟耻谤别」にオンライン掲载されました。

a. ストロンチウム?ルテニウム酸化物のバンド構造。性質の異なる3つのバンドα, β, γから構成される。
b. γ(ガンマ)バンドとβ(ベータ)バンドの電子数が合計数を保ちつつ振動している。上の図では線の太さで電子の数を表現している。
「新しい手法で魅力的な量子物质の性质を调べたところ新奇な信号を観测しました。当初はそのメカニズムがわからず投稿论文もアクセプトされませんでした。最近になって、以前にパインズ博士が予言した『悪魔』を観测したのでは、との観点から详しい理论解析も进めて実験データが説明でき、论文掲载に至りました。今后はこの物质での『悪魔』の详しい振る舞いを调べるとともに、同様の条件を备えた他の物质での研究展开にも期待しています。」(前野悦辉)
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【书誌情报】
Ali A. Husain, Edwin W. Huang, Matteo Mitrano, Melinda S. Rak, Samantha I. Rubeck, Xuefei Guo, Hongbin Yang, Chanchal Sow, Yoshiteru Maeno, Bruno Uchoa, Tai C. Chiang, Philip E. Batson, Philip W. Phillips, Peter Abbamonte (2023). Pines' demon observed as a 3D acoustic plasmon in Sr?RuO?. Nature, 621(7977), 66-70.
京都新聞(10月14日夕刊 7面)に掲載されました。