乳がん発生の进化の歴史を解明―ゲノム解析による発がんメカニズムの探索―

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 がんは我が国を含む多くの先进诸国で死因の第一位を占め、我々の健康に重大な影响を及ぼす疾患です。近年、その発症は増加の一途をたどっており、我が国においては、男性の3人に一人、女性においても2人に一人が一生のうちにがんと诊断されると推定されています。これまでの研究から、がんは细胞のゲノムに异常が生ずることによって惹起される疾患であることが明らかとなっており、近年のゲノム解析技术の革新を背景として、过去10年间に、ヒトの主要ながんについては、その発症に関わるゲノムの异常(ドライバー変异)が明らかにされています。しかし、その病态については、なお多くが解明されていません。がんは、ドライバー変异を获得した一つの起源の细胞にはじまり、その子孙の细胞が次々に新たなドライバー変异を获得することによって、数百亿から数千亿个からなる集団、いわゆる「がん」を発症すると考えられています。しかし、この最初の変异がいつ获得されるのか、また、その最初の変异を获得した细胞が、いつ、どのような変异を获得して、最终的に「がん」と诊断されにいたるのか、というがんの発症経过の全体像についてはよくわかっていませんでした。

 今回、小川誠司 医学研究科教授、戸井雅和 同教授(現:東京都立駒込病院長)、西村友美 同特定助教、および垣内伸之 白眉センター特定准教授らを中心とする研究グループは、宮野悟 東京医科歯科大学特任教授および佐藤俊朗 慶應義塾大学教授らとの共同研究により、近年増加の一途を辿っている乳がんについて、思春期前後に生じた最初の変異の獲得から数十年後の発症にいたるまでの全経過を、最先端のゲノム解析技術を駆使することによって、世界で初めて明らかにすることに成功しました。

 本研究グループは、まず、加齢にともなって単一乳腺细胞に変异が蓄积していく过程を解析することにより、全ての乳腺细胞には闭経にいたるまでに毎年约20个の変异が蓄积すること、また、闭経后には、蓄积速度が约1/3に低下すること、さらに、一回の妊娠出产で约50个変异が减少することを见いだし、変异の蓄积が女性ホルモン(エストロゲン)に依存していること、妊娠出产后には、それまで休眠状态にあった细胞から新たに乳腺组织が再构筑される可能性があることが示唆されました。続いて、本研究グループは、このようにして决定された変异の获得速度に基づいて、乳がんとその周りの良性の増殖性病変や正常上皮との遗伝学的な関係性を调べることで、乳がんの初期の変异の获得からその発症にいたる経时的な経过を推定しました。その结果、(1)乳がん全体の约20%を占める「诲别谤(1;16)転座阳性の乳がん」の起源は、思春期前后に当该転座を获得した単一の细胞に由来すること、(2)同细胞は分裂増殖を繰り返し、数十年后に乳がんを発症するころまでには、乳腺内の広い领域にわたって拡大するに至ること、(3)こうした拡大の过程を通じて、30歳前后までには、その后乳がんを発症することになる复数の起源の细胞が生じ、これらの细胞から多中心性に発がんが生じたこと、が推定されました。今回の研究结果は、人生の极めて早期に変异を获得した细胞からがんが発症するまでの全体像を初めて明らかにしたものであり、今后、乳がんの発症予防や早期発见、早期治疗の开発に贡献すると期待されます。

 本研究成果は、2023年7月26日に、国际学术誌「狈补迟耻谤别」にオンライン掲载されました。

乳がんの进化の歴史を解明するための系统树解析
乳がんの进化の歴史を解明するための系统树解析
研究者のコメント

「今回の研究によって、乳腺の细胞がいつどのような遗伝子异常を获得し、どのような変化を経て乳がんの発症に至るのか、という発がんの详细な歴史が明らかになりました。乳がんは多くの日本人女性の健康?生命を胁かす重要な疾患ですが、今回の研究成果を手がかりとして乳がんが発生するメカニズムの解明に取り组んでいます。私たちの研究が乳がんの予防や治疗の向上に贡献し、乳がんで亡くなる女性を减らすために资することができればと考えています。」(小川诚司)

研究者情报
研究者名
小川 誠司
研究者名
西村 友美
研究者名
垣内 伸之
书誌情报

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【书誌情报】
Tomomi Nishimura, Nobuyuki Kakiuchi, Kenichi Yoshida, Takaki Sakurai, Tatsuki R. Kataoka, Eiji Kondoh, Yoshitsugu Chigusa, Masahiko Kawai, Morio Sawada, Takuya Inoue, Yasuhide Takeuchi, Hirona Maeda, Satoko Baba, Yusuke Shiozawa, Ryunosuke Saiki, Masahiro M. Nakagawa, Yasuhito Nannya, Yotaro Ochi, Tomonori Hirano, Tomoe Nakagawa, Yukiko Inagaki-Kawata, Kosuke Aoki, Masahiro Hirata, Kosaku Nanki, Mami Matano, Megumu Saito, Eiji Suzuki, Masahiro Takada, Masahiro Kawashima, Kosuke Kawaguchi, Kenichi Chiba, Yuichi Shiraishi, Junko Takita, Satoru Miyano, Masaki Mandai, Toshiro Sato, Kengo Takeuchi, Hironori Haga, Masakazu Toi, Seishi Ogawa (2023). Evolutionary histories of breast cancer and related clones. Nature, 620(7974), 607-614.

メディア掲载情报

京都新聞(7月27日 22面)、産経新聞(7月27日 22面)、日刊工業新聞(7月27日 33面)および朝日新聞(9月27日 16面)に掲載されました。