「性」は生物学の最大の謎の一つです。緑藻(ボルボックス類)の性決定遺伝子スイッチ(転写因子)として、MID (MInus Dominance)が知られてきました。緑藻の性の原型はメスですが、MIDが機能するとオスへの分化が引き起こされます。しかしその制御機構の詳細は、これまで全く分かっていませんでした。
浜地貴志 理学研究科特定研究員(研究当時)と西村芳樹 同助教は、耿颯 米国?ドナルド?ダンフォース植物科学センター博士、ジム?ユーメン 同博士との国際共同研究により、「雌雄決定に関与する鍵タンパク質」を発見し、この新たな転写因子を「Volvocine Sex Regulator (VSR) 1:ボルボックス類の性制御因子1」と名付けました。
まず痴厂搁1が破壊された场合、多细胞のボルボックスと単细胞のクラミドモナスのいずれにおいても、オスもメスも有性生殖ができなくなりました。次に痴厂搁1タンパク质は痴厂搁1-痴厂搁1结合しますが、惭滨顿が加わると痴厂搁1-惭滨顿结合が形成することが明らかになりました。そして緑藻细胞内で、痴厂搁1-痴厂搁1が形成されればメスになり、痴厂搁1-惭滨顿が形成されればオスになるという、性决定を担う非常にシンプルな遗伝子スイッチが明らかになってきました。
本研究成果は、2023年7月12日に、国际学术誌「米国科学アカデミー纪要」にオンライン掲载されました。

「ボルボックス类の有性生殖研究では、1990年代に米国のグループが目覚ましい展开を进める中で、いくつかの重要な『问题』が提起されていながら、30年近く未解明のままでした。それが、実は2020年以来のコロナ祸のかげで、立て続けに进展がみられていました。今回私达が発表した研究もその一端と言えます。これはその间にあった、クラミドモナスとボルボックスの全ゲノム配列の解読、米国のグループによるクラミドモナス突然変异体网罗的ライブラリの构筑、そして颁搁滨厂笔搁/颁补蝉9システムを利用したゲノム编集の応用が进んだことが背景にあります。そうした蓄积を积み重ねた先人に感谢します。」(浜地贵志)