末次健司 白眉センター特定助教は、日本に生育する菌従属栄養植物の分布の調査とその分類の整理に取り組んでいます。その一環として実施した鹿児島県鹿児島郡三島村竹島での調査の中で、2014年4月に未知の菌従属栄養植物を発見しました。この植物は、ラン科のオニノヤガラ属に属し、これまで知られていたどの種とも異なる形態であることから、新種「 Gastrodia flexistyloides 」として记载されました。和名は、ずい柱が折れ曲がることをお辞仪に见立て、额が地面につくほどの丁寧なお辞仪?礼拝を意味する「额突き(ぬかづき)」を冠し、「ヌカヅキヤツシロラン」と名づけられました。
本研究成果は、植物分类学の国际誌「笔丑测迟辞迟补虫补」に掲载されました。
研究者からのコメント
末次特定助教
菌従属栄養植物は、植物の最たる特徴といえる光合成をやめ、きのこなどの菌類に寄生して生活しています。この光合成をやめる過程ではどのような進化が起こったのでしょうか? これは古くから注目を集めるテーマでしたが、菌従属栄養植物の多くが稀少種であるため、その解明は難しいとされてきました。そこで私は、研究の土台とすべく、野外における徹底的な探索と記載分類を行っています。今回発見されたヌカヅキヤツシロランは、光合成だけではなく、開花もやめていました。このような進化は、昨年発見したタケシマヤツシロランでも見られます。
菌従属栄养植物は光合成を行わないため、光の届かない林床を生育地としていますが、暗い林床にはハナバチなどの访花性昆虫も访れません。そのため、菌従属栄养植物は暗い林床でも确実に繁殖できるように、受粉に昆虫のサポートを必要としない自殖を採用し、さらには花を咲かせることもやめた可能性があります。つまり、菌従属栄养植物が光合成をやめる过程で、送粉者など他の生物との共生関係までも変化させた可能性が示唆されました。今后も菌従属栄养植物の分类学的、生态学的研究を行うことで、植物が「光合成をやめる」という究极の选択をした过程で起こった変化を、一つでも多く明らかにしたいと考えています。
概要
植物の中には、自らは光合成能力を行わず、糖を含むすべての养分を他の植物や菌类から略夺するという特异な进化を遂げた「従属栄养植物」と呼ばれる种が存在します。中でも菌类に依存するものを「菌従属栄养植物」といいます。菌従属栄养植物は光合成を行わないため、花期と果実期にしか地上に姿を现しません。また花期も短く、サイズも小さいものが多いため、见つけることが非常に难しいです。加えて、叶などの光合成器官が退化していることから分类形质が少ないため、同定も困难です。これらの要因から、植物の调査研究が比较的进んでいる日本においても、菌従属栄养植物の正确な分布情报についてはあまり解明が进んでいないのが现状です。
そこで末次特定助教は日本国内における菌従属栄养植物の分布情报の整理に取り组んでいます。その一环として、鹿児岛県叁岛村竹岛において调査を行っていたところ、未知の菌従属栄养性のラン科植物を発见しました。この植物は、オニノヤガラ属に属し长い花筒をもつことから、既知种の中ではハルザキヤツシロランや、末次特定助教が昨年度発表したタケシマヤツシロランに近縁と考えられます。特に花筒が开かない、开花时期の背が高いといった外见上の特徴は、タケシマヤツシロランに极めて类似しています。しかし、タケシマヤツシロランでは黒褐色である花被片の色が本种では淡褐色であることや、花期がタケシマヤツシロランよりも1~2週间早いことから、花の内部形态を精査したところ、ずい柱や唇弁の形态がタケシマヤツシロランとは异なっていることがわかりました。
特に本种の、ずい柱の中心部分が折れ曲がり、葯帽(花粉块)とともに柱头に接着して自动自家受粉するという特徴は、既知の日本产オニノヤガラ属植物には见られない特徴でした。また他の形质も併せて検讨した结果、海外の种を含めても本种と同种と考えられる种はありませんでした。そのため本种は、新种として记载され、「 Gastrodia flexistyloides 」(和名「ヌカヅキヤツシロラン」)と命名されました。
図:ヌカヅキヤツシロランの自动自家受粉様式(ずい柱の中心部分が折れ曲がり、葯帽(花粉)とともに柱头に接着している。この部分をお辞仪に见立てた)
详しい研究内容について
书誌情报
[DOI]
Kenji Suetsugu
"Gastrodia flexistyloides (Orchidaceae), a new mycoheterotrophic plant with complete cleistogamy from Japan"
Phytotaxa 175 (5): pp. 270–274 published: 15 Aug 2014
掲载情报
- 京都新聞(5月8日夕刊 8面)に掲載されました。