末次健司 白眉センター特定助教、川北篤 生態学研究センター准教授、加藤真 人間?環境学研究科教授による研究グループは、埃種子とよばれる非常に微細な種子を持ち、風による種子の散布を行うと考えられてきたラン科植物において、初めて動物による種子散布を発見しました。
本研究成果は、日本時間2015年5月5日午後7時(英国時間2015年5月5日午前11時)、英国科学誌「Nature Plants」に掲載されました。
研究者からのコメント
末次特定助教
植物といえば光合成を行い、自ら炭素化合物を生产する独立栄养生物として知られていますが、中には光合成をやめて地中の菌类から全养分を略夺するという特异な进化を遂げた、菌従属栄养植物と呼ばれるものが存在します。光合成をやめることにより、これらの植物は、植物が通常生育できないような暗い林床でも生育できるようになりましが、暗く风通しの悪い林床は、风による种子散布に适していないと考えられます。そのような环境で确実に种子散布を行うため、ツチアケビは液果をつけ、鸟に种子散布を託すという进化を遂げたと考えられます。
ラン科植物は一般に、叶を展开するまでの间、菌根菌とよばれる地中の菌からの养分供给がなければ成长することができないため、无数の微细な种子を风に飞ばすことで菌根菌と遭遇できる确率を高めているというのが定説でした。しかしツチアケビは、菌根菌への寄生を一生涯に延长し、风通しの悪い林床に进出することで、逆に风散布を丧失し、动物散布を再获得したと考えられます。このように、植物が光合成をやめるという进化は、単なる机能の丧失ではなく、一见関係ないと思われる种子散布様式の変化まで促す可能性が示唆されました。今后も菌従属栄养植物の分类学的、生态学的研究を行うことで、植物が「光合成をやめる」という究极の选択をした过程で起こった変化を、一つでも多く明らかにしたいと考えています。
概要
ラン科植物は、そのすべての种が、叶を展开するまでの间、菌根菌とよばれる菌类からの养分供给に依存して生育しています。発芽直后に菌に寄生するという特徴のため、ラン科植物の种子は胚乳などの养分を保持しておらず、その微细さから埃种子とも呼ばれます。ラン科植物は埃种子を大量に生产し、それらを风に乗せて散布させることで、生存に必要な菌根菌と出会う确率を高めていると考えられてきました。
一方ラン科では、実生が菌に寄生するという特徴が前适応となり、およそ200种が一生涯に渡り、菌から得て生育することで、完全に光合成をやめるという进化を遂げています。完全に光合成をやめてしまったツチアケビのようなラン科植物は、光合成を行う必要がないため、竞争相手となる光合成を行う植物が生育できない非常に暗い林床に生育していますが、暗く风通しの悪い林床は、风による种子散布に适していないと考えられます。例えばラン科以外の単子叶植物では、液果をつけて动物に种子散布を託す进化が21回起こっていますが、そのうち19回が林床への进出と関係があることがわかっています。また动物による种子散布様式を获得した単子叶植物のうち、11回は再び风など动物によらない种子散布様式を再获得していますが、このうち8回は林床から日向への进出と関连があることがわかっています。
事実、葉緑素を持たないラン科植物の中には、液果をつけるものが存在し、被食動物散布の可能性が指摘されていましたが、これまで証明された例は皆無でした。そこで本研究グループは、暗い森林に生育し、鮮やかな赤色の液果をつけるツチアケビに注目し、その種子散布様式を明らかにしました。その結果、ツチアケビの果実は、ヒヨドリ、シロハラなど 4種の鳥によって消費されていることがわかりました。さらに、このうち最も主要な摂食者であったヒヨドリの糞を調べたところ、ツチアケビの種子は鳥の消化管内で損傷を受けず発芽能力を保っていることがわかりました。
これらの结果より、ツチアケビは、鸟に种子散布を託していることが明らかとなりました。ラン科は被子植物において最も种数の多い科ですが、今回の発见は、世界でも初めてのラン科植物における动物による种子散布の报告となります。
図:(补)ツチアケビ植物体(花期)、(产)ツチアケビ植物体(结実期)、(肠)ツチアケビ花茎につかまるウグイス、(诲)ツチアケビ果実を摂食するヒヨドリ、(别)ヒヨドリに摂食されたツチアケビ果実、(蹿)ツチアケビ果実の切片、(驳)ヒヨドリ粪中のツチアケビ种子、(丑)ツチアケビ种子の切片(リグニン化した种皮がサフラニンで赤く染色されている)
详しい研究内容について
书誌情报
[DOI]
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Kenji Suetsugu, Atsushi Kawakita & Makoto Kato
"Avian seed dispersal in a mycoheterotrophic orchid Cyrtosia septentrionalis"
Nature Plants 1, Article number: 15052 Published online 05 May 2015