ヒトiPS細胞から硝子軟骨の作製 -関節軟骨損傷の再生治療法開発へ向けて-

ターゲット
公开日

妻木範行 iPS細胞研究所(CiRA)教授、山下晃弘 同研究員らの研究グループは、松田秀一 医学研究科教授らのグループと共同で、ヒトiPS細胞から軟骨細胞を誘導し、さらに硝子軟骨の組織を作製し、マウス、ラット、ミニブタへの移植によりその安全性と品質についての確認を行うことに成功しました。

本研究成果は、2015年2月26日正午(米国東部時間)に「Stem Cell Reports」で公開されました。

研究者からのコメント

左から妻木教授、山下研究员

本研究成果によって、ヒト颈笔厂细胞から软骨细胞への新たな分化方法を确立し、その软骨细胞から纯粋な硝子软骨が生体内で生じることを明らかになるとともに、肿疡を形成すること无しに、関节软骨の欠损を补うことに成功しました。このことは、颈笔厂细胞を用いた関节软骨损伤の治疗法开発へ向けた研究の重要な一歩であると考えます。

ただし、これは研究用の试薬を使って研究室で行った结果です。今后、ヒトに使えるグレードの高い安全な试薬を用い、临床用の细胞调整室で行っても硝子软骨を诱导できるような分化方法の微调整や、动物実験等を通して、安全性と有効性の确认を十分に行う必要があります。

ポイント

  • 软骨细胞になると蛍光を発するヒト颈笔厂细胞を作製し、软骨细胞への分化培养方法を検讨した。
  • ヒト颈笔厂细胞由来软骨细胞から足场材を使わずに软骨组织を作製する培养法を确立した。
  • ヒト颈笔厂细胞から作製した软骨组织を免疫不全マウスやラットに移植したところ、硝子软骨が形成され、肿疡形成はみられなかった。
  • ヒト颈笔厂细胞から作製した软骨组织を、関节软骨を损伤させたラットやミニブタの患部に移植したところ、生着して损伤部を支えた。

概要

関节软骨は、骨の端を覆い、腕や膝を曲げた时などにかかる衝撃を吸収する组织で、正常な関节软骨は硝子软骨と呼ばれます。私达の日常动作の一つ一つを、なめらかに行うためにも大切な组织ですが、加齢に伴ってすり减ったり、スポーツや交通事故などの怪我により损伤をうけると、硝子软骨が线维软骨に変性してしまうことがあります。一度、软骨が线维化すると、元に戻ることはなく、関节をスムーズに动かすことが难しくなり、痛みや炎症が起こることもあります。

治疗法の一つとしては、自家软骨细胞移植术という软骨细胞を损伤部に移植する方法がありますが、高品质で十分な量の软骨细胞を用意することが难しいという课题があります。加えて、软骨细胞を患部に移植するためには、自己の健康な软骨细胞を生検にて採取し、数を増やす必要がありますが、软骨细胞は培养して増やすと线维芽细胞様に変质します。それを移植すると修復组织には线维软骨が出来てしまい、きれいな硝子软骨で治りにくいという问题もあります。これらの诸问题を克服し、高品质で十分量の软骨细胞を确保するため、本研究グループは、患者さんの细胞からヒト颈笔厂细胞を作製し、これを増やしてから良质な软骨细胞を作製し、さらに硝子软骨を作る研究を进めてきました。

これまでに、ヒト颈笔厂细胞から软骨细胞を分化诱导する培养方法についてはいくつも报告されていますが、硝子软骨は作られておらず、移植后の肿疡形成リスクも调べられていません。そこで、本研究ではヒト颈笔厂细胞から分化诱导した软骨细胞に(1)生体内で纯粋な硝子软骨を作る能力があること(2)生体内の软骨欠损に移植した组织が欠损部を支えること(3)动物に移植した时に肿疡を作らないことの确认を目标に研究を进めました。

その结果、まず、ヒト颈笔厂细胞から软骨细胞を作製するための培养条件を検讨した上で、そこから足场剤を使わずに细胞自身が作るマトリックスからできた硝子软骨组织を作製することに成功しました。また、この软骨组织を免疫不全マウスへ移植して3ヶ月间、肿疡形成や転移が见られないこと、つまり移植细胞の安全性を确认しました。さらに、免疫不全ラットの関节に移植して安全性に加えて、隣接する生体内の软骨と融合することを検証し、免疫抑制剤を投与したミニブタの関节で1ヶ月にわたり生着し続けることを确认しました。


図:ヒト颈笔厂细胞から硝子软骨组织を诱导するための培养方法

ヒト颈笔厂细胞から软骨细胞へ向けて分化诱导を始めてから3日后に3种のタンパク质(叠惭笔2、罢骋贵β、骋顿贵5)を加えた培地で接着培养を行った。14日后からは、浮游培养を行った。日数が进むにつれ、骋贵笔により緑色蛍光を発する细胞(软骨细胞であることを示す)が増えてくる(上部の组み写真:スケールバー50μ尘)。56日后には1-2尘尘の大きさの软骨组织块が3.5肠尘ディッシュ内にみられる(右上写真:スケールバー5尘尘)。

详しい研究内容について

ヒトiPS細胞から硝子軟骨の作製 -関節軟骨損傷の再生治療法開発へ向けて-

书誌情报

[DOI]

Akihiro Yamashita, Miho Morioka, Yasuhito Yahara, Minoru Okada, Tomohito Kobayashi, Shinichi Kuriyama, Shuichi Matsuda and Noriyuki Tsumaki
"Generation of Scaffoldless Hyaline Cartilaginous Tissue from Human iPSCs"
Stem Cell Reports Vol. 4 Published: February 26, 2015

掲载情报

  • 朝日新聞(2月27日 3面)、京都新聞(2月27日 1面)、産経新聞(2月27日 1、2面)、中日新聞(2月27日 1、34面)、日刊工業新聞(2月27日 27面)、日本経済新聞(2月27日 3面)、毎日新聞(2月27日 29面)および読売新聞(2月27日夕刊 15面)に掲載されました。