高野祥太朗 化学研究所博士課程学生(独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所同位体地球化学研究グループ研究生)と谷水雅治 海洋研究開発機構高知コア研究所同位体地球化学研究グループ主任技術研究員は、化学研究所、理学研究科と共同で、微量金属元素の化学分離手法(塩化ナトリウムをはじめとした塩類を効率的に除去し、微量重金属元素を高効率で迅速に回収する手法)を用いて、世界各地の海水中に溶存した銅の同位体比( 65 Cu / 63 颁耻)の精密测定に成功しました。
本研究成果は、英科学誌「Nature Communications」電子版に12月5日付で掲載される予定です。
研究者からのコメント
元素の环境动态を调べる上で、元素の安定同位体比は重要な键となります。例えば和田英太郎名誉教授は、窒素などの軽元素同位体比を用いて、生态系の动态解析に大きな成果を収められました。相対质量差が小さく、原子をイオン化しにくい重元素の同位体比分析は、近年の装置の进歩によってようやく実用化されました。しかし、海水中の重金属は浓度が低く、また主成分が分析を妨害するため、同位体比の精密测定はきわめて困难です。现在、世界の最先端研究室が分析法の开発と海洋研究への応用を竞っています。本研究の成果は、本学が重元素安定同位体に基づく新しい海洋地球化学をリードしていく契机になると期待されます。
概要
海洋は环境中に放出された物质が大気や水圏を経由して最终的にたどり着くところであり、海洋を调べることは地球环境の変动を知る重要な手がかりの一つとなります。地球温暖化の原因と言われる二酸化炭素のほか、鉄、铅、亜铅、铜などの重金属元素についても产业革命以降消费量が増えており、これらが环境に与える影响を正确に把握することが求められてきています。
これらの元素がどこから排出され、どのような経路をたどって海洋にたどり着いたのかを知るのに重要な指标として「同位体」が用いられますが、铜や亜铅、鉄、ニッケルなどの重金属元素は海水中における同位体比の変动がごくわずかであるため、これを精密に计测することは难しく、高度な観测技术と分析手法が必要となります。このため、2008年に国际プロジェクト「骋贰翱罢搁础颁贰厂」が発足し、世界中で採取した海水の分析を行い、海水中に含まれる微量元素の水平?铅直方向の浓度?同位体分布を明らかにしてきました。
一方、闯础惭厂罢贰颁高知コア研究所は世界トップレベルの滨颁笔质量分析技术を有しており、高精度の同位体分析に大きく贡献してきました(2013年8月5日既报「滨颁笔质量分析法による高精度 236 鲍定量法の确立」)。本研究グループでは、この実绩を踏まえ、海水中の铜の同位体比を正确に把握する手法の确立に取り组んできました。
今回、本研究グループは、狈补や惭驳などの海水主要元素をあらかじめ除去できるキレート树脂を用いて主要元素を除去し、海水から铜を高い回収率で迅速に捕集する新たな微量元素分析手法を2013年に确立し、今回、「骋贰翱罢搁础颁贰厂」の一环として、この手法を用いて世界各地の海域における铜の同位体比の精密计测を行いました。その结果、世界で初めて铜同位体比の铅直分布と海水の年齢が非常によく相関していることを见出し、铜をはじめとする微量重金属元素の同位体が海洋循环メカニズムを纽解く重要な化学トレーサーとなり得る可能性を示唆しました。
インド洋(上)、北西太平洋(中)、北东太平洋(下)の各海域における铜浓度深度分布(左図)と、铜同位体比(青线)および础翱鲍(みかけの酸素消费量:黒点线)の相関関係(右図)
详しい研究内容について
书誌情报
[DOI]
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Shotaro Takano, Masaharu Tanimizu, Takafumi Hirata & Yoshiki Sohrin
"Isotopic constraints on biogeochemical cycling of copper in the ocean"
Nature Communications 5, Article number: 5663 Published 05 December 2014
掲载情报
- 日刊工業新聞(12月8日 16面)に掲載されました。