堀田秋津 iPS細胞研究所(CiRA)助教、李紅梅 同大学院生らの研究グループは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者さんから作製したiPS細胞において、TALEN(Transcription activator-like effector nuclease)やCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)といった遺伝子改変技術を用いて、病気の原因遺伝子であるジストロフィンを修復することに成功しました。
本研究内容は、2014年11月26日正午(米国東部時間)に「Stem Cell Reports」で公開される予定です。
研究者からのコメント
左から堀田助教、李大学院生
本研究成果は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者さんから作製した颈笔厂细胞において、叁つの戦略でジストロフィン遗伝?の変异を修復したことを世界で初めて报告しました。これまでのウイルスベクターを用いた遗伝子治疗法では、正常遗伝子を导入することができても、変异遗伝子を修復することは不可能でした。今回、私たちは罢础尝贰狈や颁搁滨厂笔搁といった新しいゲノム编集技术を用いることで、変异遗伝?だけの修復に成功しました。さらに、ヒトゲノム情报から特异的な配列データを抽出することで、予想外の変异导?がほとんど无く、狙ったところだけを修復することができました。
今后、治疗に结びつけるためには、修復した颈笔厂细胞からいかに移植に适した细胞を作製するかなど、いくつも课题が残っていますが、今回?した?法が、今后の遗伝?治疗の新しい枠组みとなることが期待されます。
ポイント
- ヒトゲノムの中で1カ所しかない塩基配列のデータベースを构筑した。
- 罢础尝贰狈および颁搁滨厂笔搁を用いてデュシェンヌ型筋ジストロフィー(顿惭顿)の患者さん由来颈笔厂细胞においてジストロフィン遗伝子を修復した。
- 遗伝子修復した颈笔厂细胞において、意図しない致命的な遗伝子変异は见られなかった。
- 筋细胞へ分化させたところ、正常型のジストロフィンタンパク质が検出された。
概要
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、ジストロフィンという遗伝子に変异が生じ、筋肉の衰弱が进行していく疾患です。患者さんから得た颈笔厂细胞でジストロフィン遗伝子を修復することが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの新たな遗伝子治疗につながると期待できますが、30亿塩基で构成される巨大なヒトゲノムの中で、ジストロフィン遗伝子というたった1カ所の変异だけを精密に修復するのは困难でした。
そこで、本研究グループは、まずゲノム上の配列の中から、予期しない場所でDNA切断が起きないように、ゲノム全体で1箇所しかない配列のデータベースを作成し、その情報を元に遺伝子の切断部位を決めました。ジストロフィンタンパク質の機能を取り戻すために、研究グループは三つの手法(Exon 45 skipping、Reading frame shift、Exon 44 knock-in)を患者さん由来のiPS細胞に用い、Exon 44 knock-in法が最も効果的なアプローチであることを見出しました。さらに核型解析、コピー数多型解析、エクソーム解析により、最も遺伝子変異の少ないクローンを選びました。最後に選び出されたiPS細胞を骨格筋細胞へと分化させたところ、正常型のジストロフィンタンパク質を発現していることを確認しました。
これらの结果は、将来の颈笔厂细胞技术による遗伝子治疗に向けて重要なフレームワークとなることが期待されます。
図:ジストロフィン遗伝子を修復するための叁つの戦略
44番目のエクソンが欠损すると遗伝子の読み枠が変わり、45番目のエクソンの途中でタンパク质の合成がストップしてしまい、异常なタンパク质となる。そこで読み枠を戻し、タンパク质の合成が最后まで进むようにするために上记叁つの戦略を立てた。
详しい研究内容について
书誌情报
[DOI]
[KURENAI Access URL]
Hongmei Lisa Li, Naoko Fujimoto, Noriko Sasakawa, Saya Shirai, Tokiko Ohkame, Tetsushi Sakuma, Michihiro Tanaka, Naoki Amano, Akira Watanabe, Hidetoshi Sakurai, Takashi Yamamoto, Shinya Yamanaka, Akitsu Hotta
"Precise Correction of the Dystrophin Gene in Duchenne Muscular Dystrophy Patient Induced Pluripotent Stem Cells by TALEN and CRISPR-Cas9"
Stem Cell Reports Vol. 4 Available online 26 November 2014
掲载情报
- 朝日新聞(11月27日 3面)、京都新聞(11月27日 30面)、産経新聞(11月27日 1面)、中日新聞(11月27日 1面)、日刊工業新聞(11月27日 26面)、日本経済新聞(11月27日 46面)、毎日新聞(11月27日 3面)および読売新聞(11月27日 36面)に掲載されました。