人類が手にする物質を透視する新しい「眼」 -素粒子ミュオンを使った非破壊軽元素分析に成功-

ターゲット
公开日

2014年5月27日

土`山明 理学研究科教授、寺田健太郎 大阪大学理学研究科教授などの研究チームは、大強度陽子加速器施設J-PARCのミュオン装置群MUSE (MUon Science Establishment)の世界最高強度のパルスミュオンビームを用い、数mm厚の隕石模擬物質から軽元素(C、B、N、O)の非破壊深度分析、有機物を含む炭素質コンドライト隕石の深度70μm、および深度1mmにおける非破壊元素分析という新しい非破壊元素分析に成功しました。

本研究内容は、5月27日(日本時間)、英国Nature Publishing Groupのオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

レントゲンによる齿线の発见により、我々人类は物质を透视する「眼」を持ちました。物质内部の密度分布情报を得る齿线ラジオグラフィーと呼ばれる透视法は、物质内部の密度分布の情报を知る事ができるため、自然科学、物质科学、医学、工学など幅広い分野で応用されています。

今回私たちが报告する物质透过能力の高いミュオンを用いた化学分析は、非破壊で肠尘サイズの物质内部の元素の浓度と分布を知ることができ、今后、位置検出型の検出器の开発が进めば、人类は齿线ラジオグラフィーに次ぐ物质を透视する新しい「眼」を持つことになるでしょう。例えば、未知物质や贵重な试料の化学组成(炭素などの軽元素も含む)を密封した状态で调べたり、2020年に帰还予定の「はやぶさ2」が小惑星から持ち帰ったサンプル中の有机物含有量や分布の非破壊分析などに大きな威力を発挥すると期待されます。

概要

负ミュオン(μ-粒子)は、电荷-别、质量が电子の约200倍の不安定素粒子です。近年、大强度阳子加速器施设闯-笔础搁颁では、世界最高强度のパルスミュオンビームを生成することに成功し、さまざまな分野への応用が期待されていました。

ミュオンビーム分析の最大の特徴は、測定試料内でμ-粒子が重い電子として振る舞うことです。μ-粒子は高い物質透過能力をもち、電子よりはるかに試料の奥深くまで侵入することができます。試料中で運動量を失ったμ-粒子は、ある深さで元素に取り込まれます。元素に取り込まれたμ-粒子は電子よりも原子核に近い軌道を周回しながら、より低いエネルギー準位の軌道へと遷移し、元素ごとに特有のエネルギーをもつミュオン特性X線を発生させます。このミュオン特性X線は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)のような電子ビーム分析で発生する特性X線に比べ、約200倍のエネルギーをもち、物質の透過能力が高いことから、cmサイズの物質内部の化学組成の情報を非破壊で得ることが可能となります。この元素分析法は40年以上前に提案されていましたが、J-PARCの世界最高強度のパルスミュオンビームによって、初めて実現しました。

本研究では、次の3点に成功しました。

  1. μ-粒子の運動量を32.5 MeV/cから57.5 MeV/cまで段階的に変化させながら、SiO2、C(グラファイト)、BN(窒化ボロン)、SiO2の4層(各1.4mm、計約6mm)からなる試料に照射した深度プロファイル分析に成功
  2. 太阳系诞生时の记忆を残し、生命材料ともなりえた地球外有机物を含む陨石である炭素质コンドライトの深さ70μ尘からの炭素ピークの検出に成功(従来の电子ビームによる分析では极表面付近の数μ尘程度の深さしか分析できません)
  3. 今年度に打ち上げられ、C型小惑星からのサンプルリターン (2020年地球帰還)をめざす「はやぶさ2」の回収試料の非破壊元素分析を想定し、ガラスチューブに封入したマーチソン隕石から、隕石起源のMgとFeのピークを検出することにも成功

図:电子ビーム齿线分析とミュオンビーム齿线分析の违い

表面近傍を観る电子ビームに対し、透过力の高いミュオンビームは、入射エネルギーを変えることで、バルク状态の任意の深部まで届く。

详しい研究内容について

人類が手にする物質を透視する新しい「眼」 -素粒子ミュオンを使った非破壊軽元素分析に成功-

书誌情报

[DOI]

K. Terada, K. Ninomiya, T. Osawa, S. Tachibana Y. Miyake, M. K. Kubo, N. Kawamura, W. Higemoto, A. Tsuchiyama, M. Ebihara & M. Uesugi
"A new X-ray fluorescence spectroscopy for extraterrestrial materials using a muon beam"
Scientific Reports 4, Article number: 5072 Published 27 May 2014

掲载情报

  • 日刊工業新聞(5月28日 25面)に掲載されました。