体に本来备わっているガン予防のしくみに迫る

ターゲット
公开日

2014年4月22日

高橋淑子 理学研究科教授、吉野剛史 同特定研究員らの研究グループは、奈良先端科学技術大学院大学、大阪大学の研究グループとの共同研究により、生体内で隣り合う上皮組織の間にコミュニケーション(上皮間相互作用)が存在することを発見しました。このコミュニケーションがうまく働かないと上皮組織が壊れやすくなり、ちょっとした刺激やストレスでがん転移が起こりやすくなります。また、これら上皮間相互作用の実体として、フィブロネクチンが鍵を握ることがわかりました。

本研究成果は、「米国科学アカデミー紀要」(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)のオンライン版に掲載されることになりました。

研究者からのコメント

左から高桥教授、吉野特定研究员

今回の上皮间相互作用の発见は、ガン以外にも、例えば血管同士の相互作用を利用した循环器疾患治疗への応用など、さまざまな病気の原因究明に新たな视点を与えることが期待されます。今后は上皮间相互作用のさらなる実体解明と、上皮间相互作用からみる器官形成や组织破绽のしくみ解明に务めたいと考えます。

本来の个体発生のしくみを知る研究から、新たな「细胞の声」が闻こえてきます。これらの発见をヒト疾患の解明研究とブリッジさせることにより、よりスケールの大きな生命科学を目指します。

概要

体のさまざまな臓器の内部は、上皮组织でぎっしり詰まっています。上皮とは细胞が整然と配置されている组织のことを意味し、もしこの上皮が壊れてバラバラの细胞になると、ガン転移などにつながります。上皮性の组织は体中に存在し、多くの场合それらはお互い密に接しています。しかし生体内において、隣り合う上皮间に何らかの相互作用が存在するのか、また存在するとしてもその役割は何かについては、これまで全くわかっていませんでした。よい解析系がなかったからです。

今回研究グループは、これらの问题解决に最も适しているニワトリ胚を用いて、一部の上皮を除去するなどオリジナルな解析法を考案することにより、上皮间相互作用の発见にこぎつけました。トリ胚の発生のしくみは、ヒトを含めた哺乳类と非常によく似ているため、今回の発见はヒトのガン治疗につながる可能性が高いと言えます。今回の研究では、「体腔上皮」と呼ばれる上皮と、そのすぐ下に作られる肾管(上皮)に注目しました。体腔上皮とは、臓器を覆う薄い膜や肠间膜の元になる组织です。まず、体腔上皮と肾管がお互いうまく関係を保ちながら作られることを见出しました。次に、両者间にシグナルが働くのかを知るために人工的に肾管を除去したところ、体腔上皮の形状が异常になりました。特笔すべきは、肾管の有无によって、体腔上皮のガン化诱导作用に対する抵抗性が大きく异なっていたことです。つまり肾管からのシグナルがあると体腔上皮は「顽丈」で、たとえガン化因子を作用させても変化ありませんでした。一方で肾管が除去された体腔上皮は抵抗性がなく、ガン化因子によって転移に似た现象が引き起こされました。このことは、生体内では隣り合う上皮がお互いに作用しながら、ガンなどの异変がおこるのを防ぐしくみがあるという可能性を示すものであり、世界で初めての発见です。さらに今回见出した上皮间相互作用の実体として、细胞外基质としてよく知られているフィブロネクチンが主要な蛋白质であることを証明しました。今后のガン予防法や治疗法に新たな道を开くと期待されます。

図:今回の発见のまとめ

详しい研究内容について

体に本来备わっているガン予防のしくみに迫る

书誌情报

[DOI]

Takashi Yoshino, Daisuke Saito, Yuji Atsuta, Chihiro Uchiyama, Shinya Ueda, Kiyotoshi Sekiguchi, and Yoshiko Takahashi
"Interepithelial signaling with nephric duct is required for the formation of overlying coelomic epithelial cell sheet"
PNAS published ahead of print April 21, 2014

掲载情报

  • 京都新聞(4月22日 27面)および産経新聞(4月22日夕刊 10面)に掲載されました。