ニホンザル血小板減少症の原因ウイルスの特定と病態再現 -マカカ属サル由来レトロウイルスの種間伝播による新規致死性感染症の発生-

ターゲット
公开日

岡本宗裕 霊長類研究所教授、宮沢孝幸 ウイルス研究所准教授らの研究グループは、大阪大学微生物病研究所、国立感染症研究所、予防衛生協会、医薬基盤研究所、東海大学医学部、京都府立大学医学部と共同で、ニホンザル血小板減少症の原因がサルレトロウイルス4型によるものであることを特定しました。

本研究成果は、2015年3月6日付の英国科学誌「Scientific Reports」および米国微生物学会が発行する国際学術誌「Journal of Virology」(2015年4月号)に掲載されました。

研究者からのコメント

左から冈本教授、宫沢准教授

これほどまでに激烈な症状を短期间に引き起こすレトロウイルスは、自然例では知られていませんでした。数万年から数十万年前には、このような强毒なレトロウイルスがアジアで蔓延していて、ニホンザルは40万年前に日本列岛に移り住むことで、この种のウイルスから逃れていたのかも知れません。今后は、レトロウイルスがマカク属の自然免疫机构の进化に寄与した可能性も含めて研究を进めたいと思います。

概要

ニホンザルは、日本固有のマカク属サルであり、北限の霊长类としても知られています。ニホンザルは学习能力が高く好奇心旺盛で、穏やかな気质をもっているので、研究用の动物として大変适した特性を有しています。そのため、脳研究をはじめとしたさまざまな実験に使用されており、霊长类研究所においても、800头以上を饲育?繁殖しています。その霊长类研究所で饲育しているニホンザルにおいて、原因不明の血小板减少症が流行し、多数のニホンザルが死亡しました。発症サルに抗生物质の効果がないことや、炎症性反応を示す兆候が见られないことから、この疾病は细菌性ではなくウイルス性であることが推测されていました。

霊长类研究所を主体とした疾病対策チームは、大阪大学微生物病研究所、国立感染症研究所、予防卫生协会などに协力を依頼し、同疾病とベータレトロウイルス属に分类されるサルレトロウイルス4型(厂搁痴-4)の感染の有无に相関があることを见い出しました。その结果を受けて、ウイルス研究所の研究チームは、血小板减少症を呈するニホンザルから厂搁痴-4を分离、ニホンザルに実験感染させることで血小板减少症が短期间のうちに诱导されることを见い出しました。さらに、遗伝的に単一な厂搁痴-4の感染によっても血小板减少症が诱导されることを见い出し、ニホンザル血小板减少症が厂搁痴-4単独感染で引き起こされる疾病であることを証明しました。

また、厂搁痴-4が感染する际に必要なウイルス感染受容体、ニホンザルにおけるウイルスの増殖部位を明らかにし、発症メカニズムの一端を明らかにしました。厂搁痴-4は国内で饲育されているカニクイザルにも感染していますが、カニクイザルでは重篤な疾病を起こしません。弱病原性の霊长类由来レトロウイルスが、交雑が起こるほど近縁な霊长类に新たに感染して重篤な疾病を引き起こすことは、これまで知られていませんでした。本研究は、霊长类由来レトロウイルスの种间伝播による新兴レトロウイルス感染症の発生机构の解明に役立つと考えられます。


図:発症ニホンザルの血浆中にみられたウイルス粒子。太线は100苍尘を示す。

详しい研究内容について

ニホンザル血小板減少症の原因ウイルスの特定と病態再現 -マカカ属サル由来レトロウイルスの種間伝播による新規致死性感染症の発生-

书誌情报

[DOI]

Rokusuke Yoshikawa, Munehiro Okamoto, Shoichi Sakaguchi, So Nakagawa, Tomoyuki Miura, Hirohisa Hirai, Takayuki Miyazawa
"Simian Retrovirus 4 Induces Lethal Acute Thrombocytopenia in Japanese Macaques"
Journal of Virology vol. 89 no. 7 pp. 3965-3975  April 2015

[DOI]

Munehiro Okamoto, Takayuki Miyazawa, Shigeru Morikawa, Fumiko Ono, Shota Nakamura, Eiji Sato, Tomoyuki Yoshida, Rokusuke Yoshikawa, Kouji Sakai, Tetsuya Mizutani, Noriyo Nagata, Jun-ichiro Takano, Sachi Okabayashi, Masataka Hamano, Koji Fujimoto, Takaaki Nakaya, Tetsuya Iida, Toshihiro Horii, Takako Miyabe-Nishiwaki, Akino Watanabe, Akihisa Kaneko, Akatsuki Saito, Atsushi Matsui, Toshiyuki Hayakawa, Juri Suzuki, Hirofumi Akari, Tetsuro Matsuzawa & Hirohisa Hirai
"Emergence of infectious malignant thrombocytopenia in Japanese macaques (Macaca fuscata) by SRV-4 after transmission to a novel host"
Scientific Reports 5, Article number: 8850 Published 06 March 2015

掲载情报

  • 中日新聞(4月1日 29面)に掲載されました。